アートとテクノロジーを融合し、国内外で先駆的な体験型インスタレーション作品を次々と展開しているチームラボ。希代のビジョナリーと言われる代表の猪子寿之は、250年以上の伝統を持つコニャックと、どう対峙するのか?

多世代のテイスティングコミッティーが
毎朝11時にブレンドを決める

 250年以上もの伝統を持つコニャックと、テクノロジー×アートの最先端を疾走する存在、猪子寿之。フランスのコニャック地方で生まれたヘネシーと、かの国のクオリティ・ペーパーであるル・モンドからも高評価を受ける、猪子寿之率いるチームラボの作品群は、双子のような類似性を見せる。いずれも、世界との境界を曖昧にする、実験と革新の産物なのだ。

チームラボ
代表 猪子寿之

1977年生まれ。2001年東京大学計数工学科卒業時にチームラボ設立。チームラボは、様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート、サイエンス、テクノロジー、クリエイティビティの境界を越えて、集団的創造をコンセプトに活動している。47万人が訪れた「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」などアート展を国内外で開催。他、「ミラノ万博2015」の日本館、パリ「Maison & Objet」、5時間待ち以上となった「DMM.プラネッツ Art by teamLab」、シリコンバレー、台湾での個展など。またシンガポール、韓国で巨大な常設展、PACE LONDON (ロンドン)にて個展「teamLab: Transcending Boundaries」を開催中。今後、北京などで開催予定。3月末から「人と木々とクリスタル花火」(グランモール公園、横浜市)開催。
http://www.team-lab.net/jp/

 テーブル上のグラスには、氷の塊に琥珀色の「Hennessy X.O」が注がれている。文京区本郷の一角にあるチームラボのオフィス。オフィス空間には多くのデジタルアートが展示され、なかでも、禅における書画のひとつ「円相」(円形を一筆で描いたもの)が空間に描かれ、それがゆっくりと音もなく形を変えている。グラスに口をつけた猪子寿之は一言「これ、うまいよな」と呟く。

 頻繁には、お酒を口にしないが、数少ない中で好きなお酒はフルーツを原料とする蒸留酒だという。

 ブランデーの一種であるコニャックを、あらためて定義すると、「コニャック地方で栽培されたぶどうで、白ワインを醸造し、単式蒸留を2回行い、オーク樽で2年以上熟成した蒸留酒」となる。そしてヘネシーの物語は、1765年、コニャック地方でビジネスを始めた、アイルランド人の将校リチャード・ヘネシーに始まる。

 創業以来、ヘネシーは常に革新性を追い求め、世界最高峰のコニャックを次々と誕生させてきた。その革新性は現代も生き続けている。常に高い品質を保つ為、テイスティングコミッティーが毎朝11時から数千種におよぶオー・ド・ヴィー(原酒)味見をし、それぞれのブレンドを決めているのだ。その中でも「Hennessy X.O」は、12〜30年熟成された約100種類のオー・ド・ヴィー(原酒)がブレンドされ、リッチでパワフル、かつ極めて滑らかな味わいが特徴だ。

 一方、猪子寿之の革新性は、デジタルという概念が美を拡張するという考えにある。

 「デジタルテクノロジーによって、表現は物質から解放されて表現単独で存続できるようになった。たとえば絵画は、キャンバスや絵の具という物質を媒介することで存在しているが、物質から解放された表現は、自由に変容可能な存在になったのです」

 猪子寿之はそれを「空間適応性」と呼ぶ。デジタルアートは容易な拡大が可能になり、鑑賞者は以前よりも作品を直接的に「体感」し「参加」することが可能になったのだ。