深い知見を持ち、実用化をサポートする 新しいベンチャーキャピタルの在り方

創薬のための
“エコシステム”を構築

 創薬では、非臨床試験を経て臨床試験にこぎ着けるまでに2~5年、10億~30億円の資金が必要だ。臨床試験に入っても上市できる確率は10分の1。米国では新薬の6割がベンチャー発で、大学から、投資家やインキュベーターなどが支えたベンチャーを経て、製薬会社が医薬品に仕上げていくエコシステムが確立している。

 MUCAPの「1号ファンド」の戦略性は、こうしたエコシステムの構築を促そうとしている点にある。投資を主導してきた長谷川宏之・執行役員ライフサイエンス部長は、「有望な案件には最大5億円の投資を提案できる。これは起業の出発点になったり、他の投資家への呼び水になる額であり、当社も複数の類似案件を手掛けることで投資リスクの低減につながる」と語る。

金澤佳人
第一三共 バイオロジクス本部
モダリティ研究所主査
オープンイノベーション担当

 大手の製薬会社でも、新薬開発で外部の知見や資金を活用する動きが広がっている。例えば第一三共とMUCAPが展開している「OiDEプロジェクト」。アカデミアの基礎研究で生み出された魅力ある技術を画期的な創薬基盤技術に育成する。現在までに旭川医科大学と医薬基盤研究所の2件を手掛けた。

 プロジェクトを担う金澤佳人・第一三共バイオロジクス本部主査は、「アンメット・メディカル・ニーズに革新的な治療法をもたらすには新しい技術基盤が必要だが、革新的な技術は成功確率が読めないこともありリスクマネーを活用した育成が適している。OiDEは将来のニーズを意識しながら複数の技術基盤を育成できる。これまでの経験では、創薬ベンチャーへの投資には、将来の市場ニーズや製薬メーカーのニーズを読み取って研究と成果の方向性を目利きできる経験が重要だ」と言う。