デジタル活用で浮いた時間を
何に振り向けるか

 自分たちが本当にやりたいことを実現するために、今の仕事をデジタルに肩代わりさせるという発想も大切だ。

 とくに大企業のマネジャー以上の会議にとられる時間は非常に長い。私の知人の大企業の経営者や役員も、自分のワーク時間の4分の3くらいを会議に使っている。これではクリエイティブな仕事ができるはずもない。

 私が講演や執筆、コンサル、リサーチなどいろんな仕事をしているのを知って「よく時間がありますね」と言う人も多いが、それは会議にとられる時間が少ないからだ。私は、月2回の自社の会議、役員会とスタッフ会議で合計4時間しか費やしていない。それ以外の時間を好きに使えるから、考えたりアイデアを出したりもできるわけだ。

 ただし、デジタルを活用して浮いた時間を何に振り向けるかを決めておかなければ、効率化する意味がない。それには、ITの知識を持つ社内の人材をデジタル部門に移し、新事業・サービス開発にあたらせることが必要だ。

 人は機械に仕事を任せていくと、自分の存在価値を見失いがちになる。それを防ぐためには、デジタル活用で仕事がなくなった人たちに、次はこういう付加価値の高い仕事ができるんだという目標を与えてあげなければならない。だからこそ、新事業・サービス開発が必要なのだ。そうすれば、社員のモチベーションが上がり、企業の成長にもつながる。

既存のルールが適用されない
「特区」を作る

 一方、経営者には、デジタルトランスフォーメーションを推進しやすくするために社内のルールを変えることが求められる。これまでのROIの基準や予算の使い方、人材活用などのルールが適用されない「特区」を作り、そこで存分にデジタル活用にチャレンジできる環境を整える。

 それがなければ、小規模なPOC(実証実験)を繰り返すばかりで、本当のイノベーションは生み出せない。山ほど積み残しのPOC案件が残っている企業はいくらでもある。

 また、環境作りができていないと、どんなに優秀な人材を採用してもイノベーションは起こらない。孤軍奮闘して周囲に潰されてしまうのが関の山だろう。

 こうしたゼロベースの改革と並行し、現在の強みを生かすことも考えるのが重要だ。例えば、工場の生産ラインが合理的に構築されているのなら、それを捨てて新たにデジタルを活用した工場を造る必要はない。

 日本企業の場合は、「挟み撃ち方式」が最も適していると私は思う。生産部門についていうなら、従来の方法を徹底的に追求する部門と、3Dプリンタを利用するなど全く別次元から追求する部門を、トンネルのあちらとこちらから同時に走らせる。そうすると、いずれ両者はどこかで出会うことになる。そのとき、欧米企業には真似できない存在価値が生まれているはずだ。

 日本企業は、欧米企業のようにベンチャー投資やファンド活用ができないし、社員のリストラも難しいため、この方法でしかイノベーションは起こせないだろう。