とはいえ、日本独自のクオリティの高さで勝負すれば、誘致の可能性はむしろ高くなるという見方は多い。「施設などの整備が一巡した今、開催地ならではのおもてなしが多様に提案でき、それらを実現するために必要な街を挙げての受け入れ体制を構築することがMICE開催地の評価に繋がる」と言うのは渡辺氏だ。

 たとえば静岡県文化・観光部が実施したMICE観光満足度調査によると、MICEの参加者が催事と開催地に評価を与えるのは、「開催地ならではのおもてなし」に対する満足度が高いときであることが判明。その結果、静岡県では県内の産業観光や“茶摘み体験”など参加体験型のプログラムを発掘し、“ユニークべニュー”を多角的に拡大、誘致に成果を上げているという。

 東條氏も「日本のMICEは、量よりも質の高さで勝負するべきだ」と主張する。

  たとえばサミットが行われたザ・ウィンザーホテル洞爺では、韓国のグローバル企業がスイートを借り切って戦略会議を行った。あるいは報奨旅行でも貢献度が高い社員には、規模が小さくても予算の高いツアーが提供される。そうした“プレミアム・インセンティブ(&ミーティング)”の誘致に力を入れてはどうか、という提案である。

  東條氏は、「日本には伝統文化が残る美しい地方都市が多く、キャパシティが問われなければ、高級温泉旅館など、MICEを誘引する魅力的な施設は数多くある」と潜在的なMICE資源を指摘する。

MICEを促進する
公的機関の役割

  JNTOでは今、冒頭で理事長が語ったように、MICEの誘致や開催を積極的に支援している。具体的には、開催都市選定の手伝いから、理事長による招請状の発出、PR用の画像やDVDなど各種資料の提供など。また海外事務所を通じての国際団体本部へのアプローチ、開催地決定に影響力のある海外キーパーソンの招請を行っている。開催決定後は、寄附金募集・交付金交付制度の案内をはじめ、観光情報の提供などを行う。

  またJNTOとともに、大きな役割を果たしているのが、各地のコンベンション・ビューローだ。その主な誘致支援メニューには、コンベンション施設や宿泊施設の紹介、視察の受け入れやビッドペーパー作成の資料提供、プレゼンテーション用ツールの提供のほか、国際会議開催助成金の交付や、開催準備資金の無利子貸し付けなどがある。

 地方ごとに独自の取り組みも行っており、一つの例を挙げれば、名古屋観光コンベンションビューローでは今年9月から、MICEを取り扱う旅行会社を対象に「名古屋MICE推進助成金」制度を開始した。

「名古屋を訪れる外国人10人以上の団体に、市内3泊以上かつ半日の観光旅行を条件に、1件当たり10万円の助成金を提供するというものです。愛知県にはグローバル企業が多く、海外からのお客様が常に数多く来訪している。こうした地域のポテンシャルを生かしてMICEの推進を図るのが狙いです」と事業部コンベンショングループの木野有恒氏は説明する。

  今年は東日本大震災の影響による停滞はあったものの、各ビューローの働きもあり国際会議の誘致は復活しつつある。キーパーソンの招請を積極的に行い、豊かな日本文化を印象づけることで、日本初開催の国際会議の誘致にも数件成功している。ある意味で、日本の国益にも繋がるMICE振興。その動きは、今さまざまな場面で本格化している。

■MICEは経済成長のエンジン&インフラ
~観光庁のMICE推進検討委員会~

 観光庁もMICEの推進に力を入れており、この7月には「MICE推進検討委員会」を設置し、今後のMICE政策の審議を進めている。

 9月に行われた中間とりまとめでは、MICEには「幅広い経済波及効果」とともに「ビジネス機会やイノベーションを生み出す効果」が大きく、いわば、わが国経済の成長エンジンであると同時にインフラでもあると指摘している。

 韓国、中国、豪州などが先んじてMICE振興に国を挙げて注力しており、このままでは日本のMICE競争力を維持できないと警鐘を鳴らし、官民が力を合わせてMICEを強力に推進する必要があると訴えている。

http://www.mlit.go.jp/kankocho/iinkai/kako.html