企業が幸せを追求・実現
すべき“5人の人々”
では、その「人々」とは具体的にどのような人々のことを指すのか。坂本教授によれば、次の5人である。「社員とその家族」「仕入れ先や協力企業等で働く社外社員とその家族」「現在顧客と未来顧客」「地域住民、とりわけ障がい者や高齢者等の社会的弱者」「出資者や関係機関」。その中でも最も大切なのが「社員とその家族」だという。
「これまでの経営学の定説は、株主第一とか顧客第一で、社員や社外社員はそのための道具や手段でした。また社会的弱者に対する雇用も、余裕がある会社が率先して行うべきという考え方が支配的でした。
ところが、全国の8000を超える企業の現地調査をしているうち、業績が安定的に高い企業は、例外なく共通した経営学が展開されており、その共通項こそが“人をとことん大切にする”人間本位主義の経営だったのです」
「社員とその家族」の幸せを追求するというと、「顧客が一番ではないのか」「社員はそこから給料をもらっているのではないか」と疑問を持つ人が出てくる。だが経営者が顧客や株主より、社員とその家族を重視する理由は二つある。
一つは、顧客満足度の高いサービスや、顧客が喉から手が出るほど欲しい感動的商品を創造・提案するのは、他でもない社員だからだ。つまり社員満足度なくして顧客満足度はあり得ないし、顧客が大切だからこそ、社員はもっと大切なのだ。
二つ目は、自分が所属する企業や上司に不平・不満、不信感を持った社員が、所属する企業の業績を高めるような、また上司の出世を手伝うような価値ある行動をするはずがないからだ。これが、業績第一主義、勝ち負け第一主義になるとどうなるか。その企業からは次第にぬくもりが消え失せ、逆にギスギス感がはびこっていく。
「社外社員」というのは坂本教授の造語で、そう名付けた理由は、本来、仕入れ先や協力企業なくして、どんな企業も存続できないからである。ひどいのは、まるで恒例のように毎年数%のコストダウンを強要する企業で、誰かの犠牲の上に成り立つような経営は企業間関係が長く続くはずがない。こうした取引は結果として産業組織を弱体化させる。
また、企業の盛衰の決定権者は顧客であるから「現在顧客と未来顧客」を大切にするのは当然で、「社会的弱者」を大切にするのは、彼ら彼女らに雇用の場が決定的に不足しているからであり、また弱者になりたい人はこの世に存在しないからである。障がい者に合わせた職場環境づくりをする企業の多くは業績も良いという。
大切にしなければならない5人目の関係者は、株主や関係機関。だが坂本教授に言わせると、株主や関係機関の幸せは「(前の)4人の幸せを追求・実現した結果として実現する幸せ」だという。実際に、社員および社外社員第一主義を愚直に実践している企業こそ、結果的に高い株主満足度を達成しているのだ。