社員に圧がかからなければ
“お互いさま風土”が醸成される

「いい会社」の条件には「人を大切にする」ことを含め、他に幾つかの項目がある。

 例えば「価格競争をしない」こと。価格競争が行き過ぎると、同業者よりも低価格に抑えるために、日常的な長時間残業など労働密度の強化が行われることになる。「いい会社」は非価格競争力を持っている。価格以外の付加価値を売りにした競争力だ。

 さらに「年輪経営」を行っていること。「年輪経営とは、不自然な急成長や急拡大をしていない経営のこと。不自然さは人間を苦しめます。ゆっくり着実に、あえて低成長をしている会社は、社員に余計な圧がかからないため、社内に“お互いさま風土”が醸成され、社員が伸び伸びと仕事をしています」と坂本教授は言う。

 また、「環境依存・追随型経営をしていない」こと。取引先の方針や景気など外部環境に依存せず、自主・自立の独立経営を行っている。“松明は自分の手で持つ”という姿勢で、環境が良くても悪くても、取引先からの要求に屈しない。そのためには、その企業でしか創造・提案できない価値のあるサービスや商品を持っていることが条件になる。

 それに加えて、サービスや商品に偏りがなく、一部の市場が駄目になっても他の市場で売り上げを出せる、「バランスの取れた経営」を行っていることも重要だ。

 ワンマン経営ではなく「全員参加経営」が行われているのも、「いい会社」の共通項だ。「社員のモチベーションを高める有力な方策の一つは、計画作りへの参画。やらされ感が強いと、社員の能力は十分に発揮されません」。

「いい会社」は評価基準もオープンでガラス張りであるのが共通している。中小企業の場合、利益が知らないうちに社長の懐に入っているようでは、“頑張れば報われる”という意欲が生まれない。さらに、情報を受信するだけなく「発信型経営」を行っていること。市場は今やグローバルなのだ。

新卒採用と人財教育に注力する会社が
好業績を持続する

 さらに「いい会社」は、好不況にかかわらず人財確保、特に新卒採用に注力しているのが特徴だ。定期的に採用することで、企業は常にバランスの取れた年齢構成になる。後輩社員は先輩社員の背中を見て学び、先輩社員は後輩社員に触発され尊敬される先輩になるよう努力する。坂本教授はこれを“企業が持つ見えざる教育”と呼んでいる。

「『不況だから人を採用しません』という会社が多いのですが、不況だからこそ人を採用して会社を元気にしなくてはならない。設備投資は控えても人財確保は大切です。

 また『いい会社』ではおしなべて人財教育に力を入れています。企業のあるべき教育時間は、所定内労働時間の5%以上、つまり毎月ほぼ1日分の教育です。金額でいえば、社員1人当たりの人財育成経費は年間10万円以上が望ましい。企業の成長は社員の成長の総和であり、社員の成長なくして企業の成長はあり得ないからです」

 加えて「いい会社」は管理的ではなく、ぬくもりのある「大家族的経営」を行っている会社が多い。過度な成果主義は、組織や個人を見境のない競争に走らせ、企業内に勝ち組と負け組を生んでしまう。業績重視、勝ち負け重視の経営は、最も重要な社員やその家族を心身共に疲れさせてしまうばかりか、組織内の風土を荒廃させる。それはやがて、企業の盛衰を決定する顧客満足度までも低下させてしまう。

「近年、わが国を代表する巨大企業が相次いで問題を露呈していますが、問題の本質はまさにここにあります。私自身が創った格言に“正しき経営は滅びない、欺瞞に満ちた経営はやがて滅びる”という言葉がありますが、まさにその通り。存続している『いい会社』とは、あくまでも人を大切にする経営を実践している会社であり、それが現実なのです」