「感情コントロール」は
ビジネス分野でも大きな可能性

 VRと心理学の融合は興味が尽きることがなく、感情のようなより上位の「意味」に関わる高次機能領域にまでも拡大されつつあります。

 例えばデジタルの鏡に、そのままの自分の顔ではなく「VRで作られた笑顔」をリアルタイム表示することで、その時の気分が本当に楽しくなるという現象があります。一般には感情が先にあって、それが表情に出ると信じられていますが、心理学における感情論から言うと、笑ったという身体変容があって、それを脳が「私は笑ったから今は楽しいんだ」と判断して感情がわき起こる、ということになります。

 つまり感情が生まれるときに、「身体が行動することによって感情もその方向に向かう」という側面があるのです。これは、ある種のフェイクを作ることをきっかけに感情のループを動作させることができれば、その人の精神面にまで影響を与えられることを意味します。

 こうした手法は、将来的にビジネス面で実用化されていく可能性があります。なぜならメンタル面の変化は、購買行動に直結しやすいからです。例えば、同じマフラーでも、笑った顔での試着と泣いた顔での試着では、笑った鏡での試着が消費者の購買につながる確率が高くなります。もちろんこうした技術はさまざまな議論を巻き起こすでしょう。種々の道義的問題等をクリアしなければなりませんが、VRによって購買行動をより促す、試着用の"VRフィルター・ミラー"を作ることは、それほど難しいことではないのです。

 また、テレビ会議でのモニター映像に、リアルタイムで「笑顔化」のフィルター処理をすれば、和やかな雰囲気の会議を演出することができます。これは脳の活性化につながって、ひいては発想されるキーワードの数の増加などに有意に影響があることが分かっています。