「ひと研究所」は、ビデオリサーチが取り組んでいる生活者に関する研究所だ。「シニア」「若者」「F2(ミドル女性)」などのターゲット研究や、新しい「生活者セグメント」を開発することで、生活者に届きやすいコミュニケーションメッセージの研究や、企業が抱えるマーケティング課題の発見・解決などを行っている。蓄積された生活者の膨大なデータから生まれるのは、“ひと起点”の革新的なマーケティングである。

蓄積されたデータを自ら活用し、
企業マーケティングの問題解決に取り組む


 ビデオリサーチの設立は1962年。以来50年以上にわたってテレビ視聴率を測定し続けて来た。だが同社は視聴率だけの会社ではない。もう1つの事業の柱として、設立の初期(72年)から、生活者のメディア接触全般や消費活動、生活意識などを幅広く捉える調査「ACR(Audience & Consumer Report)」を行ってきた。

 テレビ視聴率は、全国27の対象地域ごとにランダムに世帯を抽出して協力を依頼、6900世帯を対象に、メータ機器を取り付けてデータを収集している。

「ひと研究所」亀田憲所長「ひと研究所」亀田憲所長

 一方の「ACR/ex」(2014年にACRをバージョンアップ)は、全国主要7地区から抽出された約1万人に対して、1人につき最大1万問の項目についての回答を集めている。民間企業における市場把握のための調査では最大規模で、いわば「世の中の縮図」であり、現在と過去を比較できる時系列のデータとしては、唯一無二の存在となっている。

 12年、同社は会社設立50周年を機に「提供から提言まで。」というスローガンを新たに掲げ、データの提供に留まらず、自らそのデータを分析・研究・発信することで、企業のマーケティングにおける課題解決を積極的に行ってゆく方針を打ち出した。

 その実働部隊として、同年「ソリューション推進局 生活者インテリジェンス部」を新設。16年から「ひと研究所」と改称し、さまざまな切り口で生活者を捉える研究を開始した。

「ひと起点」の知見をもとに、
「モノ起点」とは異なる独自の答えを提供

「ひと研究所」のユニークさは、その研究内容が、長年積み重ねてきた生活者に関連の調査データに現れた生活者の内面、つまりひとの「インサイト」を起点としている点である。

 同研究所の亀田憲所長はこう説明する。

「かつてはモノやサービスを供給する企業側が、発信者として生活者に情報を提供するのが常でした。しかし今ではSNSなどの普及で、生活者自身も発信者となることが可能になり、世の中には大量の情報が溢れています。

 その結果、企業は生活者に“伝えたいメッセージ”を届けることが難しくなり、生活者自身も押し寄せる情報の量に翻弄され、本当に知りたい情報にアクセスしづらくなっています。

 この複雑化したコミュニケーションの糸を解きほぐし、シンプルな法則を見つけてソリューションを提案する、というのが私たちの役割であり、その考え方の中心となるのが“ひと起点”の知見なのです」

「ひと起点」とは、売りたいモノを誰が買うかという発想ではなく、人はどのような考え方のクセ(考え方のパターン)をもとに情報を受発信し、選択(購買)しているか、という視点である。