脳情報通信の分野で
日本からイノベーションを
左から茨木氏、西本氏、矢野氏
西本 もともとマーケティングはリアルな人間のデータを多く扱う点で基礎研究と親和性が高いと思います。研究者としては、メタデータと呼ばれるような広告動画に紐づく、認知率や購買行動の増減といった企業が蓄積したマーケティングデータにアクセスできるのも大きな魅力でした。脳活動の実験データと組み合わせれば、脳活動と行動や意思決定までの関係も研究対象にでき、幅が広がりますから。
茨木 応用範囲もまだまだ広がると思うので、広告動画に限らず視聴覚体験を含むコンテンツを扱うすべての企業に活用していただきたいですね。
西本 研究成果がダイレクトに社会で生かせるのが産学連携の面白さですね。基礎研究では脳の情報処理メカニズムを科学的に理解することにエネルギーを向けがちですが、企業との共同研究では、研究→実践→フィードバック→研究…、というループを確実に回せますし、研究が進めば進むほどループを大きくしていけます。
矢野 同感です。今回のプロジェクトでは、研究者、事業会社、顧客企業がつながって新たなエコシステムを生み出せました。企業が一方的に研究成果を求めるのではなく、サイエンス、ビジネスそれぞれのゴールを互いに理解して同じ方向に進むのが本来の「産学連携」です。それらがかみ合った成功事例だと思います。
茨木 そのような出会いをコーディネートできたことを嬉しく思います。基礎研究の世界には、社会・企業にとって価値ある原石が本当に多く存在していると思います。接点がない故に、研究の真の社会的価値が当事者にすら知られないまま「科学的に面白い研究だったね」で終わるのは本当にもったいないことだと思います。私はこれからもポテンシャルの高い研究を社会に紹介する役割を担い続けたいと思います。
矢野 大きいことを言うようですが、私も、日本のIT企業として世界初のことに取り組む意義を強く感じています。巨大なグローバル企業がITの世界を席巻するなか、日本のIT企業として何ができるか。そのひとつの答えが脳情報通信分野だと思うのです。
茨木 今、国内でも脳科学分野の産学連携の事例がようやく増えてきました。日本は脳科学の基礎研究が進んでいる割に産業界が出遅れているので、NTTデータグループが先頭に経って、ぜひこの流れを牽引したいですね。
矢野 私たちの活動を通して、国内に種をまくことの意義を多くの企業に伝えることも大切です。国内で産学が手を取り合うオープンなイノベーションを広げれば研究が活性化し、企業の事業領域が広がり、社会もよくなると思います。そんな動きを加速しようと、2017年11月、NTTデータとNTTデータ経営研究所は、CiNetと「脳情報通信ビジネスラボ(Neuro-ICT Business LAB)」を設立し、新たな産学共創プロジェクトを始動させました。
茨木 これからも脳科学の最前線を社会にどんどん還元していきましょう。「NTTデータ」の名を冠した脳情報通信デバイスやサービスが世界にあふれている…。SFみたいな「脳情報未来社会」をぜひ現実にしたいと思います。
(構成/小林直美 撮影/松井崇)
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