未知へ挑む産学共創が切り拓く「脳情報」のビジネス応用情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合研究センター(CiNet)の西本伸志氏

西本 現在私が所属しているCiNetは、脳の研究と情報通信技術を融合させて新しい価値を生み出す研究拠点として2013年に大阪に開設されました。設備等も充実していますし、基礎研究を行う機関としては比較的産業界とのつながりも強いので、ここなら自分の研究がより深められると考えました。脳神経系の情報処理研究のためには、脳活動の正確な計測が欠かせないのですが、ここCiNetはfMRIという脳機能計測用の大型研究機器を4台備えています。また、人工知能・機械学習分野の研究者との連携や計算環境の充実など、解析を進める上でも恵まれた環境です。

茨木 コンソーシアムの会員企業にもぜひ西本先生の研究を知ってもらいたいと思い、西本先生の講演と事業開発の可能性を訴えるワークショップを企画したのが2014年11月。この3人が顔をそろえたのはその日が最初ですが、すぐに意気投合して「マーケティング・広告分野での事業化をめざそう」という話になり、その後はプロジェクトが一気に進みました。

矢野 はい。3ヵ月後には企業からCM素材を借りて効果を検証する実証実験をスタートし、西本先生のモデルが動画広告の評価にも力を発揮することを確認しました。

西本 実験自体はとても単純で、動画を視聴中の人の脳活動をfMRIで記録するだけですが、全脳を2mm角に分け、大人なら6~8万ヵ所もの動画視聴中の反応をくまなく記録するのでかなりの量のデータになります。ここから被験者の知覚内容を推定し、CMがどう伝わったかを見るのです。マーケティングでは視聴者の印象を可視化するのが重要なので、「可愛い」「欲しい」「新しい」といった多様な「形容詞」でアウトプットできるようにモデルを修正し、どの場面で被験者がどう感じたかを細かく企業に伝えられるように工夫しました。