勘と経験のマーケティングに
科学的な新たな指標を

矢野 ただし、基礎研究をそのままビジネス化すると、ひとりよがりなソリューションになりがちです。DONUTsも最初はその罠に陥りました。プレゼンで面白がってもらえてもなかなか「やってみよう」という企業が現れないのです。

NTTデータ経営研究所の茨木拓也氏

茨木 企業のニーズは100社あれば100通り。PDCAで言えば、Cに当たる公開済みのCMを視聴者がどう受け止めたかを知りたい企業もあれば、Pにあたる複数の候補動画から最適解を選びたい企業もあります。企業の課題にいかにフィットさせるかについては苦労しましたね。

矢野 血圧のような数値も正常範囲が分からなければ自分の結果がいいか悪いか分かりません。CM評価にも相対的な指標が必要なんですね。そこで、よりコンサルティング的な側面を強め、クライアント企業が個別に設定している広告KPIを指標として組み込むなど、より顧客ニーズに合うよう最適化を行いました。現場業務で使っていただくためのラストワンマイルのデザインが固まり、いよいよ次のステージが見えてきました。

茨木 更に今求められているのは、「適切な人の脳」に「目的とする行動」を誘発する「最適な知覚体験」をより創造的な形で提案するようなソリューションです。こうしたニーズにも脳科学は応えていけるように研究を進められればと思っています。

矢野 究極的には「ターゲット、用途、訴求メッセージ」といったニーズを入力するだけで自動的に映像のプロトタイプを提示できるぐらいにしたいですね。最終的な意思決定を下すのは人ですが、その手前を「ニューロAI」が担う。従来のマーケティングで扱うのは、性別、年齢、職業といった属性データや、アンケートで得られる心理データなどが中心でしたが、そこに脳情報データを加えれば、経験と勘の世界に裏付けを与えられます。これが当たり前になれば、予算や労力も最適化できますし、本当の意味で良質なコンテンツを増やせると思います。