4Gの100倍以上に相当する
超高速通信を活かしたアプリを開発中
私はもともと5Gにおけるミリ波の活用を提唱し、2015年にITU-Rにおいて開催されたWRC(World Radiocommunication Conferences)や、2016年から進められている3GPP(Third Generation Partnership Project)における5Gの国際標準化作業に携わってきた。その役割をおよそ果たしたいま、その応用に関する研究に取り組んでいる。具体的には、4Gの100倍以上に相当する10Gbpsの超高速データレートを活かせるアプリケーションを研究・開発している。
すぐにでも実用化してほしいと言われているのが、モニタリングのアプリケーションだ。ドローンなどの移動体につける超高精細なカメラをイメージしてもらえるとわかりやすいだろう。すでにドローンを飛ばして空撮することができるが、ドローンから地上へのデータレートは非常に低く、リアルタイムで何かをすることは難しい。その何か、というのがモニタリングであり、セキュリティの監視などに応用ができる。
たとえば、オリンピックの会場にドローンを飛ばして、そこから高精細な映像を地上に送り、あやしい人物がいないかを監視したり、非常事態が発生した際に、ドローンで避難誘導を適切に行うといった具合だ。地震や火災が生じた際には、人が立ち入ることができないような危険なエリアにもドローンを飛ばして監視することができるし、老朽化した建物やインフラの点検にも活用が期待されている。低空を無数のドローンが飛び交う時代が10年後にはやってくるだろう。その無線システムや交通システムの構築にまさに取り組んでいる。
もう一つは車、すなわち自動運転だ。自動運転において、そもそもどういうデータをどういうふうに情報交換すれば安全走行が実現するのかについては、まだまだしっかりした理論が構築されていない。つながっていないよりはつながったほうが安全だろうとか、つながっていたほうがいろいろな情報が入手できるだろうといった、カーナビの延長線上のような発想が主流を占めている。
情報量を増やして交通効率を上げることと、走行の安全性を担保することは、実はまったく次元が異なる問題で、私は安全な自動運転を実現するにはどういった通信インフラが必要かといった研究に取り組んでいる。それは無線システムの要求条件や仕様を設計し、現状のV2V(Vehicle to Vehicle)/V2X(Vehicle to Everything)を併用して、安全な自動運転をサポートする仕組みをつくろうというものだ。
限定条件下でシステムがすべての運転タスクを実施する「レベル4(高度運転自動化)」や、「レベル5(完全運転自動化)」を実現するための要求条件と、それを実現するためのシステムを設計するという意味で、取り組む意義は大きいと考えている。