超スマート社会の実現に向けて
学際的なコンソーシアムを設立

 車同士が協調して、データを交換し合いながらリアルなマップをつくっていく。その際に、高速・大容量のやりとりができる通信システムがないと、現実的な速度で運転を行うことができないということだ。さらにカーブミラーを電子化したり、ほかの車が持っているサイドミラーの情報を5Gを使って集めることができれば、視界が広がるので安全性は高まる。そうしたことを一番最初にやるのは中国かもしれない。道路交通システムが世界的に見て遅れているため、5Gを実用化したときの利得がものすごく大きいからだ。

 高速・大容量のデータ通信を低遅延で実現する5Gは、フィジカル空間やサイバー空間、スマートシティ、ロボットをつなぐ神経のような役割を担うと言われる。サイバー空間においては、IoTなどのセンサーが集めたビッグデータをAIが解析し、またその時代の膨大な計算を担う量子コンピュータの開発も進んでいる。5Gは、これらの革新的テクノロジーの中心に位置し、それ単独ではビジネスにはならないが、それぞれのテクノロジーとつながることで、新たなアプリケーションが生まれ、超スマート社会が実現する。

 我々、東京工業大学の研究者が中心となって、「超スマート社会推進コンソーシアム」の設立を年内にも立ち上げる予定だ。超スマート社会では、あらゆる業種業態において、データや情報を扱う人材が必要になる。1社単独でことを進めていくのは難しいので、エコシステムをつくったり、社会実装を連携して行うことも必要になる。横断的に共創できる組織を目指して、民間企業や他大学からもメンバーを募っていくつもりだ。

 4Gの時代を含めると、過去20年にわたり無線通信工学の研究・開発に取り組んできたが、昨今の社会的ニーズはそこよりも、むしろ通信を使って新しいアプリを開発することにある。企業からの引き合いもさまざまな業種からあり、彼らと組んで新しい応用分野を開発していくことにも注力していきたい。

 前述の通り、5Gの商用化によって、B2CからB2B2Cの世界が主流となる。プラットフォーマーと言われる米国の巨大IT企業がいて、オペレーターがいて、その両方がコンシューマーから利益を上げるというビジネスの構造を一変させるようなインパクトを5Gは持っている。5Gという神経を持つ日本のオペレーターが、新しいテクノロジーを取り込むことで、サイバーとフィジカルの2つの世界を相手にしたビジネス展開も可能になるだろう。そこはぜひ期待したいところだ。

(取材・文/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)