自動運転をサポートするミリ波を活用した
道路交通システムを研究・開発
「グーグルカー」の屋根には、「ライダー(LIDAR)」というセンサーが搭載されていて、ぐるぐる回転し、周囲をセンシングしながら自動走行を行う。基本は道路の車線を追いかけながらも、周りにどういった車がいるかをライダーが観測しながら動くわけだ。
日本では、内閣府が提唱する「ダイナミックマップ」の構築に向け、実証実験が始まっているが、静的な高精度3次元地図の上に重ねる「動的情報」、すなわち周辺車両や歩行者などのリアルタイムの情報をどう再現するかについては、まだ実効的な手段がない。レーザーレーダーで3次元のポイントデータを収集し、周囲の環境を観測しながら走行するのだが、当然、23区に入れば、車や建物などの障害物も多く、視界も広くない。
米国の交通事故で最も死亡率が高いのが「追い越し」によるもので、前方を走る車で視界が遮蔽されているときに追い越そうとして事故が起こるといわれる。そこで、もし前方の車にセンサーがついていて、そこからデータを入手することができれば、死角に車がいることがわかるかもしれない。「協調認知」と呼ぶが、これが実現すると、安全性がある程度担保できるようになる。そのために必要な通信システムは何か、という疑問の答えとして「自動運転をサポートするミリ波V2V/V2X」という研究を行っている。
シミュレーションによると、時速70kmで安全運転を行うには、協調認知を前提として1.5Gbpsくらいのデータレートが必要で、協調認知がない場合はどんなにがんばっても時速30kmの壁は越えられないことがわかっている。1.5GpbsというデータレートはV2V/V2Xに28GHzや60GHzのミリ波を活用することで実現されるが、現時点において日本で実用化されているV2Vは700MHzを使用しており、10Mbps程度のデータレートしかサポートされていない。
私が実際に行っているのは、このミリ波を活用したV2V/V2Xシステムの提案である。システムと言っても、ほとんど道路交通システムに近い。いまは信号機があって、赤、黄、青という3つの情報を出して、人間がそれを見て情報を判断しているわけだが、センサーが車や信号機についていて、その情報を周りの車や歩行者などと交換できるようになれば、どのような交通システムが実現するかということを考えている。すべてにセンサーがついていて、ネットワークでつながるとすると、そもそも信号機は要らなくなるかもしれない。また将来的には、上空を飛ぶドローンのための新しい交通システムも必要になるであろう。
実際に車を使って公道で実験を行うことはできないので、我々の研究室では、ロボットにセンサーをつけて、5Gでデータ通信し、廊下の地図を周りのロボットと情報交換して自動走行するという研究も行っている。