そのシナリオ分析では、以下の3つのシナリオを想定し、国際産業連関表、及びOECDの付加価値ベースの貿易データを使用して影響を試算しました。
シナリオ1:米中が互いに500億ドル分の輸入品に高関税をかけ、対象品目について貿易が50%縮小。
シナリオ2:米国が1500億ドル、中国が500億ドル分の輸入品に高関税をかけ、対象品目について貿易が50%縮小。
シナリオ3:シナリオ2に加え企業心理の悪化から設備投資が2%抑制されたとする。
経済への悪影響が最も小さいと見られるシナリオがシナリオ1ですが、この場合は経済への影響はかなり限定的となります。より影響が大きくなるシナリオ2でも米経済に与える影響は米国の場合で0.1%程度、中国側でも0.2~0.4%程度、日本も最大0.1%程度です。因みに、韓国は0.2%、台湾は0.4%程度成長率が押し下げられると試算されており、相対的に影響を受けやすいと見られます。
なお、シナリオ3はシンプルな貿易の減速の影響だけではなく、米中の対立が続き、先行き不透明感から企業行動が慎重化してグローバルに設備投資が2%程度抑制されるという厳しい条件を想定しています。さすがにこの場合は影響が大きくなり、日米では0.5%強、中国については1%超の成長率低下になると見込まれます。これらのシナリオ分析の差異は、企業マインドへの作用によって設備投資が影響を受けるか否かです。企業マインドが影響を受けて投資活動が鈍れば、経済全体への影響はかなり大きくなると覚悟する必要がありそうです。
現時点での我々の見方では、米国も中国も、関税の掛け合いなど事態のエスカレートを招けば、景気が失速してしまい国民からの不満の声が高まると考えられるため、そういった事態に陥ることを避けるのではないかと予測しています。特にトランプ大統領にとって、現在の最も重要な政策上の目標が今年秋に行われる中間選挙だと考えられるためです。
トランプは駆け引きによって交渉を有利な方向に導きたいと考えていると見られることから、ある程度交渉が進むまでは事態のエスカレートを惹起させる事態となることも十分見込まれますが、最終的には危機的な状況には陥らないと見ています。
シナリオ1やシナリオ2にとどまるのであれば、世界経済にとっても金融市場にとっても、あるいは企業の業績にとっても大きな悪影響はなさそうです。
例えば企業業績について、上述のシナリオ1とシナリオ2について試算しましたが、それをまとめると以下の通りとなります。
対象企業はS&P500の採用銘柄で、それらの海外売上高が1.7%減少、輸入コストは0.6~1.7%程度上昇し、1株当たり利益は1~2%程度減少すると見られます。この程度の減益要因でしたら、今年は、米国企業の2桁の利益成長は十分可能と言えます。さらに、前述しました税制改革の波及効果や、これまでのドル安、原油高などのポジティブな要因もあるため、企業業績に与える影響は限定的と考えられます。
(三井住友アセットマネジメント 調査部長 渡辺英茂)



