1業種に1社、CDOが誕生すれば
同業他社に波及するケースが多い
欧米企業から遅れること3~4年。日本企業のなかにもCDOを起用し、デジタルトランスフォーメーションに必要な組織を整備する機運は徐々に高まりつつある。1つの業種に1社、CDOを設ける先進的な企業が出てくれば、そこから同業他社に波及するケースも見られる。銀行、保険業界がそうだ。三菱UFJフィナンシャルグループは2017年5月、デジタル戦略を加速するため、専門組織を拡大・拡充するとともに、Chief Digital Transformation Officer(CDTO)を新設した。みずほフィナンシャルグループも新ビジネス創出に向けた専担組織としてインキュベーションプロジェクトチームを設置し、デジタルイノベーションを専担する役員Chief Digital Innovation Officer(CDIO)を設置した。ほかにも商社、プラントエンジニアリング、化学メーカーなどで同様の動きが見られる。
CDOの起用は、すなわちデジタルトランスフォーメーションに対する危機感の表れと見ていい。自社はデジタルトランスフォーメーションをしないで生き残ることができるのか。おそらく多くの企業の答えが「NO」だろう。その理由の1つは、少子高齢化で人材不足が進展するなかで、人材をいかに効率的に活用するかという問題に直面していることが挙げられる。もう1つは、ディスラプター企業との競争だ。日本は、欧米ほどイノベーティブカンパニーは生まれにくい状況にあるとはいえ、それでも徐々にディスラプター企業が参入しつつある。ある日、気づいたら自社の業界が国内外のディスラプター企業に浸食されていることはなきにしもあらずだ。そう考えると、ビジネスモデルの変革は待ったなしであり、業種を問わず多くの企業にとって、CDOの起用と組織整備は急務と言える。
国や行政の対応も重要だ。たとえば、自動運転や電気自動車(EV)などの技術によって自動車業界が変われば、交通システムのあり方も変わるし、住環境やスマートシティの在り方も影響を受ける。官民一体となったプロジェクトをスピーディに進めていくためには、企業側だけでなく、市町村や省庁といった行政・自治体にもCDOを置いたほうがいい。
政府は2018年1月にデジタル・ガバメント実行計画を策定し、各種行政手続きのオンライン化やワンストップサービスの実現に向け取り組んでいる。これを管轄するのは内閣官房の情報通信技術(IT)総合戦略室である。同組織には政府CIO(Chief Information officer、最高情報責任者)はいるが、CDOはいない。CIOはどちらかというと、IT基盤、システム構築を担当する役割を担う。デジタルトランスフォーメーションを通じて、競争力を高めていくには、政府にもCDOが必要だと我々は訴えている。