ITやデジタルの知識は不可欠だが
必ずしも専門家である必要はない
CDOの役割とは何か。SOMPOホールディングスのグループCDO常務執行役員、楢崎浩一氏は、もともと三菱商事の出身で、シリコンバレーでいくつかスタートアップ企業の立ち上げに携わり、2016年5月、SOMPOホールディングスのグループCEO櫻田謙悟氏に招へいされ、同社のCDOに就任した。彼のミッションは、デジタルトランスフォーメーションを推進し、グループ全体を変えていくこと。10年先を見据えてビジネスモデルを変革し、「昔、SOMPOは保険会社だったらしいよ」と言われるようになることだと明言している。
自社の企業戦略のなかに「デジタル戦略」を組み込み、社内環境や風土を変え、顧客への新たな価値提供がデジタルトランスフォーメーションの本質であるとするなら、それをけん引するのがCDOの役割である。変革した後の自社の“あるべき姿”を定義し、方向性を示すのは経営トップの仕事であり、その右腕となり、デジタル化を進めるのがCDOだ。
デジタル化によって既存の組織を変革するには、ときには衝突も起こるだろう。CDOが外部から招へいされた人材であれば、「なんで外から来た人に、そんなことを言われなければならないんだ」と反発をくらうケースも十分考えられる。企業カルチャーをすべて壊してしまうのは現実的ではない。ある程度尊重しつつも、変革の必要性を繰り返し訴え、従業員を説得し、納得を得られるようなヒューマンスキルが求められる。また、CDOが率いるデジタル関連の新規事業部は“陸の孤島”になりがちだが、その役割と主張を各事業部に浸透させるには、強力なリーダーシップも必要だ。
日本ロレアルの長瀬氏、SOMPOホールディングスの楢崎氏、ベネッセホールディングスの榊原洋氏など、外部から招へいされたCDOにはIT企業のキャリアを持つ人材も多い。もちろん、CDOにはITやデジタルの知識は不可欠だが、必ずしも専門家である必要はない。世のなかでいま何が起きているのか、デジタル化のトレンドを知っていること。自社の変革に必要な技術がどこにあるのか、外部の企業を探して、すぐにやりとりできること。あとは自社のビジネスモデルを理解し、“あるべき姿”を経営トップと議論しながらつくっていけるような人材が好ましい。
CDOに近い役職として、CMO(Chief Marketing Officer、最高マーケティング責任者)や前述のCIOがあり、企業によっては、CIOがCDOを兼務しているケースもある。CDOはどちらかというと、社内の閉ざされたシステムについて取り扱うだけでなく、社内外でコミュニケーションをとったり、プレゼンテーションを行うことも求められる。新しいビジネスモデルをつくるということは、それまでのシステムを壊していく必要もあるので、CIOには荷が重いかもしれない。
欧米では完全にCIOと切り離してCDOが置かれ、CEOとともにデジタル化を推進する。社長に次ぐ役職であり、次期社長が就任するケースも多い。そういった意味では、CDOはCMOやCIOよりも上位に位置づけられると考えていいだろう。