AIやIoTなどにより勝ちパターンが変化する中、多くの企業が新規事業の創出に取り組んでいる。三菱ガス化学でその役割を担うのは、2015年4月に発足した新規事業開発部だ。同部のキーマン2人に話を聞いた。
リーフレタスを生産する
完全人工光型の植物工場
三菱ガス化学の新規事業開発部が進める取り組みの中で注目を集めているのが、完全人工光型の植物工場だ。今年6月に福島県白河市で着工した同工場ではまず、リーフレタスを生産する。一工場で3万2000株のスケール感は世界有数のものだ。
化学メーカーと植物工場。一見、接点がないように思えるが、三菱ガス化学が手掛けることには明確なロジックがある。
「生産設備に使う材料や素材、そして大規模なプラント運営で培ったノウハウなど、パーツとして見ると、三菱ガス化学のリソースに分解することができる。人手不足という農業の構造的な問題を解決するきっかけにもなりますし、”社会と分かち合える価値の創造”という弊社のビジョン実現にもつながる。新規事業開発部のチャレンジにふさわしいと判断しました」
こう説明するのは、三菱ガス化学の茅野義弘執行役員・新規事業開発部部長。食料の保存や保管に関する製品は扱いがあったものの、生産に関わる事業はこれまでなかった。そのため、工場での野菜生産の事業化は、新規事業開発部の発足間もない頃から議論していたという。
「外的要因に左右される畑地栽培と異なり、完全人工光型の植物工場はコストや生産量の管理もしやすい。といっても、他社の運営事業を調べたところ、黒字化できているのは約2割で、半分以上は赤字という状況でした。現時点で参入しても、収益モデルを構築する確信が持てず、社長には『時期尚早』と報告しました」
新規事業開発部事業戦略グループの北原義孝主席は、当時を振り返って説明する。
ブレークスルーのきっかけとなったのは、植物工場の運営と生産品の販売に実績を持つベンチャー企業ファームシップとの出合いだった。ディスカッションパートナーとして話し合う中で現実的な解決策が見えてきた。
「現行の企業は、初期投資とランニングコストを生産物の価格で回収するという算段。よって生産物は高額になりますが、それが売れる保証はない。一方、ファームシップはコストを削減しながら、工場の大規模化によりリーズナブルな価格で生産物を消費者に届ける。メーカーとして考え方に共感できるし、これなら実現可能だと思いました」(北原主席)