谷川 薫
代表取締役社長
「わが国の福利を増進するの分子を播種栽培す」。総合商社の兼松は、創業者の兼松房治郎が筆を取って宣言した「創業主意」を130年後の現在も企業理念に据えている。その主意の下、少数精鋭の事業集団が成長性の高い事業を手掛け内外に存在感を示している。
「創業主意」が作られた1889年の創業当時は、日本の貿易の90%以上が外国商館に独占されていたが、グローバル化が進んだ今は「わが国の福利」を「世界の福利」と読み替え「自社のもうけよりも世界の福利を増進するような商いを心掛けていれば、利益は付いてくるという創業主意の精神を大切にした企業活動を行っています」と兼松・谷川薫社長は話す。
付加価値向上による
利益増大を目指す
兼松房治郎
創業者の兼松房治郎は1845(弘化2)年、大阪に生まれた。44歳のときに日豪貿易を目的に創業し、日本人として初めて羊毛を日本へ輸入した。語録に「お得意大明神」(取引先を大切に)、「もうけは商売のカス」(収益は副次的産物)などがある
同社の長い歴史の中でも転機となったのは1999年、経営体質の強化を目的に事業の選択と集中を行い、財務基盤の改善・強化に取り組んだ。その結果、「2014年3月期に15期ぶりの復配を果たし、総合商社でありながら特定分野に強みを持つ筋肉質な企業に生まれ変わることができました」(谷川社長)。そこで14年、創業130周年に向けた5カ年の中期ビジョン「VISION–130」を策定。電子・デバイス、食品、食糧、鉄鋼・素材・プラント、車両・航空といった同社が強みを持つ主要営業5部門を深化させるとともに、事業創造を目的とした新規投資を行い、収益目標を1年前倒しの18年3月期に達成。19年3月期からは6カ年の中期ビジョン「future135」 をスタートさせている。
そして、基盤事業の持続的成長を図るとともに、事業投資による規模拡大や付加価値向上による利益増大を目指して取り組んでいる。一例を挙げれば車両・航空部門では、今後大きな需要が見込める小型ロケットの分野で米国のベンチャー企業・ベクター社と提携し、日本、インド、タイ、韓国を対象とした独占的代理店契約を結び、顧客ニーズの高い150キログラムまでの小型衛星を低コストで打ち上げることを可能にした。