じつは「国産」として売られている鶏肉も、そのほとんどは親鶏(種鶏)やそのまた親鶏(原種鶏)を海外から輸入していることをご存じだろうか。原産国での鳥インフルエンザなどの病気や災害などによって輸入が滞れば、鶏肉の生産ができなくなってしまうおそれがある。こうした国内における脆弱な鶏肉生産の現状に対して、種鶏や原種鶏を国内でまかなう必要がある、と取り組んできたのが生活協同組合のひとつである「生活クラブ」だ(ジャーナリスト・小澤祥司)。
国産鶏肉の6割から薬剤耐性菌
昨年12月、アメリカの某大手ファストフード企業が、購入する牛肉の85%を、人間の治療上重要な抗菌薬を使わないものにすると発表した。この企業ではすでに2016年から、鶏肉の抗菌薬フリーに取り組んでいる。他にも、大手ファストフードで同様の動きがある。こうした対応の背景にあるのは、家畜飼育の現場で増えつづける抗菌剤が、重大な弊害をもたらしている事実だ。
アオカビから発見されたペニシリンを始まりとして、多種多様な病原菌に対応した抗菌薬(抗生物質や抗菌剤とも呼ばれる)がこれまでに開発されてきた。本来、細菌による感染症を治療する目的で使われる抗菌薬は、畜産や養鶏の現場でも広く使用されている。
そのおもな目的は2つある。1つは家畜の感染症の予防だ。密集して飼育されることの多い家畜は、さまざまな感染症のリスクをはらんでいる。いったん感染すると広がりを防ぐことはむずかしく、そうなればすべての家畜を処分する必要がある。それを防ぐために、飼料や水にあらかじめ抗菌薬を加え家畜に投与するのである。もう1つは、家畜の成長を促すためだ。抗菌薬を投与すると、早く大きくなり、体重も増えて生産効率が上がるのである。
細菌は短時間に急速に増殖する。そのなかには、突然変異によって抗菌薬に対して抵抗性をもつ(抗菌薬を分解できる)ものも生まれる。抗菌薬によってほとんどの細菌が死滅する一方、抵抗性をもつ細菌=薬剤耐性菌は生き残り、繁殖する。家畜に多種多様な抗菌剤を与え続けていると、さまざまな抗菌薬に耐性をもつ“スーパー耐性菌”(多剤耐性菌)が生まれてしまうのだ。こうした耐性菌が、家畜のふん尿を通じて環境中にばらまかれるばかりでなく、食肉に付着して流通することもある。
日本で販売される抗菌薬の約6割は動物用で、その多くが家畜や鶏に投与されている。厚生労働省の委託研究(『食品由来薬剤耐性菌の発生動向及び衛生対策に関する研究、2018』)によると、市販鶏肉のうち国産の59%、輸入の34%から薬剤耐性菌が見つかっている。
薬剤耐性菌の多くは、大腸菌やブドウ球菌のようなどこにでもいるふつうの細菌だ。食肉に着いていても、その数は少なく、もし体表に付着したり体内に入ったりしても、健康な人であればほとんど問題はない。しかし、免疫システムの未発達な乳幼児や、免疫力の落ちた病人・高齢者に感染した場合、リスクが大きくなる。もしスーパー耐性菌に感染し発病してしまった場合、抗菌薬がまったく効かず、治療できないおそれがある。
こうしたことから、世界保健機関(WHO)は、食用に飼育される家畜への抗菌剤使用を制限することを各国に対して求めている。しかし、対策はいまだ緒に着いたばかりという状況だ。そのなかで、アメリカのファストフード企業の取り組みは、かなり先を行っているといっていい。