1980年から完全無投薬飼育を実現

 ところが、抗菌薬をいっさい使わないで育てられた鶏肉が、日本ではすでに販売されている。その生産者のひとつが、山口県山口市の(株)秋川牧園だ。

 郊外の田園地帯にある同社直営農場では、若鶏たちが明るい鶏舎のなかで落ち着いて餌をついばんでいた。肉用鶏(ブロイラー)は、窓のない締め切られた鶏舎の中で、24時間照明に照らされながら過ごすのがふつうだ。鶏たちは人工光の下、昼も夜もなく餌を食べ続ける。もちろんそれだけ早く育つことにもなる。これに対して秋川牧園の鶏舎は、自然光が差し込み、風が通り抜ける開放型。夜は自然に暗くなり、鶏たちはからだを休めることができる。

 それだけではない。飼育密度も、一般の食用鶏(ブロイラー)が3.3平方メートルあたり50~60羽なのと比べて、秋川牧園では40羽以下。飼育期間も40~50日のところ、60日と長い。自然の昼夜サイクルのなかで、健康でゆったりと育つ秋川牧園の鶏たちはストレス知らずだ。

国産種鶏「はりま」の鶏舎。自然の外光が射す伸び伸びとした環境で、抗菌剤を使わない無投薬飼育で育てられる(撮影/関幸貴)

 もうひとつ他とちがうところがある。秋川牧園の鶏舎には、あの養鶏場に特有の“鶏ふん臭さ”がほとんどないのである。その秘密は、鶏舎の床に敷きつめられたものにある。通常の養鶏では、おがくずやもみがらなどを敷きつめる。ところが秋川牧園では、鶏ふんそのものを敷きつめているのだ。

 ただの鶏ふんとはちがう。鶏を出荷したあとに、床の鶏ふんを集めて積み上げ、3週間ほど発酵させたものだ。発酵熱によって、なかにいる有害な細菌や微生物、虫や虫の卵などは死んでしまうという。それをリサイクルするかたちで、鶏舎に敷きつめ、その上で鶏を飼育しているのだ。完熟させた鶏ふんは臭わないのである。

 こうした手法によって、秋川牧園では抗菌剤を使わない無投薬飼育を1980年に完成させている。

真に国産とはいえない「国産鶏肉」

 実は「国産」として売られている鶏肉も、そのほとんどは、その親である「種鶏(しゅけい)」や種鶏のそのまた親である「原種鶏」を海外から輸入している。ブロイラーのヒナ鶏を生産する業者は、種鶏に卵を産ませて、養鶏農場に販売しているのである。

 原産国での鳥インフルエンザなどの病気や災害、あるいは為替の急激な変動などによって種鶏の輸入が滞れば、ヒナ鶏を供給することができなくなり、鶏肉の生産ができなくなってしまうおそれがある。実は「国産鶏肉」とされるうち98パーセントは、海外産の種鶏・原種鶏由来なのだ。

 こうした国内における脆弱な鶏肉生産の現状に対して、種鶏やそのまた親である原種鶏を国内でまかなう必要がある、と取り組んできたのが、生活クラブ生活協同組合(以下、生活クラブ)である。

 生活クラブは、びん入り牛乳の宅配共同購入運動を母体に、1968年に世田谷区内で設立された生活協同組合。2019年3月現在、首都圏を中心に全国に33の単位生協(単協)と、単協が加盟する連合会(本部・東京都新宿区)があり、総組合員数は40万人を超える。

 早くから食の安心・安全や国内自給にこだわってきた生活クラブでは、「自分たちに必要なものは自分たちでつくる」として、ほとんどが女性である組合員自身が、“消費材”(生活クラブでは取り扱う品を商品ではなく消費材と呼ぶ)開発に積極的に関わってきた。