小林喜光氏は経済同友会の代表幹事に就任後、2045年に目指すべき社会像を捉え、そこから逆算して変革を設計する、未来起点の社会構想として「Japan 2.0」を提言してきた。この「Japan 2.0」の議論にも加わり、2019年を日本企業の転換点とするよう提案した、デロイト トーマツ インスティテュート代表(※)の松江英夫が、日本企業を取り巻く現在の環境と変革を推進するリーダーシップのあり方について、小林氏の大局観を聞いた。
日本は茹でガエル
バージョンアップする必要がある
経済同友会代表幹事、三菱ケミカルホールディングス会長。1971年東京大学大学院理学系研究科相関理化学修士課程修了。ヘブライ大学(イスラエル)物理化学科、ピサ大学(イタリア)化学科留学を経て、74年三菱化成工業(現・三菱ケミカル)に入社、2005年三菱化学常務執行役員、07年三菱ケミカルホールディングスと三菱化学の社長に就任。15年より現職。理学博士。著書多数。近著に『危機感なき茹でガエル日本ー過去の延長線上に未来はない』(中央公論新社)
松江 小林さんが2015年に経済同友会代表幹事に就任され、翌年の創立70周年の節目に、2045年を念頭においた変革への提言を「Japan 2.0」としてまとめられました。
そこで描かれた大局的な3つの変革のうねりは、今まさに日本の不確実性を高める潮流となって広がりつつあります。
「Japan 2.0」の掲げた変革のうねりを念頭に置いて、日本企業が不確実性を恐れず、2019年を新たなステージへの転換点とするよう、デロイト トーマツ グループはThought Leadershipレポート「不確実な時代に強みを再定義~『現場エコシステム』で確実なる底力」をこのたび公表しました。
小林 「Japan 2.0」を広めるエバンジェリストとなってくれてありがとうございます。
松江 企業経営者としても、財界のリーダーとしても、常に世界経済や社会科学といった大局的な見地から日本を考察し、大胆に社会構想を描かれる小林さんを突き動かしているものは何ですか。
デロイト トーマツ グループ CSO、デロイト トーマツ コンサルティング パートナー、デロイト トーマツ インスティテュート 代表。経済同友会幹事、中央大学ビジネススクール客員教授、事業構想大学院大学客員教授、フジテレビ系「FNN Live News α」レギュラーコメンテーターなどを務める。
小林 一言で言えば、強い危機感ですね。
「Japan 2.0」も、単に最終的なユートピアを目指すだけではなくて、このまま放っておくとディストピアというか、イスラエルの歴史家、ユヴァル・ノア・ハラリ氏が指摘するような、ほんの一部のエリートだけがデータの所有者となって権力を握り、残りの大部分の人々は「無用者階級」になる――。そういった社会への危機感がベースになっています。
かつての資本主義と社会主義といったイデオロギー闘争がほぼなくなり、今は大衆迎合というかポピュリズムの時代になっています。この先はデータイズム、つまり、データを握ったGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やアリババ、テンセントなどが、世界を制覇していくデータ専制主義――。そういうディストピアがあり得るわけです。