待つのはユートピアか、ディストピアか
岐路に立つ日本、変革の指針を語る

対談(前編) 経済同友会代表幹事・小林喜光氏×松江英夫氏

日本の強みを
「現場エコシステム」として再定義する

松江 私たちの問題意識は「Japan 2.0」と共通しています。さらに私どものThought Leadershipレポート「不確実な時代に強みを再定義~『現場エコシステム』で確実なる底力」では、不確実性を高める潮流に対して、企業レベルに落とし込んで、進むべき方向性を3つの指針(①真のグローバル化、②最強のカタリスト、③新たなる内需)として提案しています。

 不確実だからこそ「確実なる底力」を戦略的に具現化することが肝要です。私たちは最も確実な強みは、日本企業の競争力を支えてきた「現場」にあると考えています。ここでいう「現場」とは、高度な技術やノウハウを築き上げてきた製品やサービスの生産はもとより、品質の選別基準で「世界一厳しい」と言われるユーザーや消費者を含めて、絶えざる化学反応が起きる「場」の総体と定義しています。

小林 確かに、モノづくりに近いところ、現場に近いところでは日本の相対的な強みはまだ失われていません。リアルな経済において、日本の強みをさらに磨き上げていくことは大切です。

 ただし、この先に通用する力を再定義する上で欠かせないのは、AIをベースに新たなテクノロジーをカタリストとして使って社会やビジネスモデルを構想する「コンピュテーショナル・デザイン・シンキング」だと思います。

 ここ数年、ビジネスの世界でデザイン・シンキングの手法を用いる企業が日本でも増えてきましたが、米国ではAIやIoTなどのテクノロジーを用いてサイバーフィジカルシステムを構築していくためのコンピュテーショナル・デザイン・シンキングの活用が広がっています。私が昨年秋、米国西海岸に行ったとき、「コンピュテーショナル・デザイン・シンキングにおいては、日本は2周遅れ、3周遅れだ」と指摘を受けました。

松江 そこは重要な点だと思います。私たちは、日本の現場が、保守的にならず、社会システム全体をデザインする中で多種多様なプレーヤーと積極的に関わってゆく、いわば開かれた「現場エコシステム」へと変わることを提案しています。

 その中でも、デジタル化のうねりの中で生き抜くための指針としての「②最強のカタリスト」というのは、デジタル技術を媒介として、現場のリアルデータとバーチャルデータをつなぎ合わせて、独自のプラットフォームを構築する戦略です。

小林 産業分野ばかりでなく、医療分野なども含めて日本は非常に精緻で鮮度の高いデータを現場で持っています。これを触媒にしながらバーチャルな世界も組み込んでいけば、日本企業にも明日があるということでしょう。

 リアルなモノの世界の発展型はまだ十分考えられるので、テクノロジーを活用した全体構想により、リアルな世界の変化を演出していく――スモール・プラットフォーマーというか、ローカル・プラットフォーマーへの進化はあり得ますね。基本的には同じ考えです。

日本の産業力回復の鍵は
社会課題解決

松江 私たちの3つの指針の一つ「③新たなる内需」では、1つの方向性として「社会課題解決型のデジタル需要」を示しました。超高齢化や人口減少など、日本は課題先進国であるからこそ、そこに大きな需要開拓のチャンスがあります。 

小林 先ほど、Z軸、つまり社会課題の解決に向けて日本がリーダーシップを発揮することが産業競争力回復の鍵になると言いましたが、まさに注力したい領域ですね。

 ここでも先端技術を用いた構想力がないと、大きなブレークスルーは起こせないと思います。例えば、CO2削減のために地中に貯留する技術が長年開発されてきましたが、逆に、再利用して石油代替燃料や化学原料などの有価物を生産するほうが、環境問題とビジネス双方での価値創造となります。そうであれば、そのための人工光合成や光触媒といった、植物からヒントを得た新技術を開発しようという発想になっていくわけです。

 そういう新しいコンセプトで環境問題や社会問題を考えるべきです。

 2050年になると今度は、世界の海洋プラスチックごみの総重量が、海に生息する魚の総重量を超えると言われています。そういう地球環境やSDGs(持続可能な開発目標)に関わる課題も、日本の産業は率先して取り組んでいくべきです。

松江 まさに日本発で世界に先駆けてイノベーションを起こすことで「新たなる内需」を掘り起こせるだけでなく、ジャパンクオリティーをアピールできれば、世界進出への足掛かりにもなります。それこそが、日本のためでもあるし、日本が世界のリーダーになる道筋だと思います。

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