待つのはユートピアか、ディストピアか
岐路に立つ日本、変革の指針を語る

対談(前編) 経済同友会代表幹事・小林喜光氏×松江英夫氏

 そうならないためには、日本という国をバージョンアップしなければいけません。ぬるま湯に漬かって、海外との関係性で比較劣位になっていることに気付かないままでは、日本は茹でガエルになってしまいます。

 2016年の主要国の研究開発費総額を比較すると、1位の米国が51.1兆円、2位中国が45.2兆円で、3位の日本は18.4兆円(科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2018」より)。しかも、米中は前年比で増えているのに、日本は減っている。これでは、国力の差が広がるばかりです。

 それが現実なのに、今の日本には危機感がなさ過ぎます。例えば、内閣府が2018年6月に行った「国民生活に関する世論調査」によると、「現在の生活に満足していますか」という質問に対して、74.7%が「満足している」「まあ満足している」と答えています。18〜29歳の若い世代では83.2%に上ります。これが最大の危機なんです。

 今、世界は急速な技術革新が同時に起きる革命期に入っています。それは長く続いた人類の歴史の中でも最大級のものだということを認識していない人が、これだけ多くいることに暗たんたる思いがします。

 古代ローマが共和制から帝政に移行した時代でも、民衆は革命が起こっていることをほとんど認識していなかったと言われます。どんな時代でも民衆は同じなのかもしれませんが、もう少し世界的な視野でものごとを捉えなければ、将来を見誤ることになります。

富士山型から、多極連立の
八ヶ岳型の産業構造へ

松江 日本の産業や企業について、具体的にどのようにご覧になっていますか。

小林 日本の自動車産業は、完成車メーカーを頂点としてさまざまな部品・素材メーカーなどがそれを支える富士山型の産業構造です。確かに世界的な競争力を維持してきましたが、この一極集中構造のまま、自動車産業が競争力を失ってしまったら、日本は崩壊してしまいます。

日本の産業構造を自動車一極集中の富士山型から、多極連立の八ヶ岳型に一刻も早く転換する必要があります。

松江 そうした危機感から、小林さんは日本の経済社会の進むべき方向性を明らかにするために「Japan 2.0」をまとめられました。

小林 「Japan 2.0」では、長期的なビジョンで価値創造を多次元で構想することで、産業を再生し、国家価値を高めることを提言しています。具体的には日本企業の稼ぐ力を高めて経済の豊かさを実現するX軸、イノベーションによって未来を開拓するY軸、そして、社会の持続可能性を確保するZ軸の3つの基軸を設けています。

とりわけZ軸、すなわち人口問題や環境・エネルギー、医療・社会保障など世界的な社会課題の解決に役立つ分野でリーダーシップを発揮して産業化していくことが、日本が特長を生かして生き抜く大きなポイントの一つになると思います。それに時間軸(t)の考え方が必要ですね。

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