ITの先進的な活用をリードしてきた領域の一つに物流業界がある。伝票処理などの煩雑な事務作業の軽減から始まった運送業のIT活用は、今や、人手不足を背景にした運送の効率化という社会課題の解消に挑んでいる。IBMが主催するAI活用コンテスト「Watson Build 2018」で日本大会のチャンピオンを受賞したのが大手運輸セイノーグループのセイノー情報サービスがまとめた「サプライチェーンにおける物流リソースの最適化を実現するダイナミックプライシング」だった。物流業界における「早割」という常識を覆す発想をAIが実現する。

「Watson Build」は、IBMのクラウドサービスIBM CloudTMとIBM Watson®のAPIを活用して新たなサービスや社会課題を解決するためのアプリケーションを開発するコンテストだ。2回目となった2018年には、IBMの多くのビジネスパートナーが参加。日本大会のチャンピオンに輝いたのがセイノー情報サービスの「サプライチェーンにおける物流リソースの最適化を実現するダイナミックプライシング」だった。

 そのコンセプトは、一口で言えば「物流業界における早割サービスの創造」だ。実現するには2つのポイントがある。トラックの積載率の向上と、ダイナミックプライシングによる荷量の平準化(山崩し)だ。

運賃の変動により荷量を平準化させる

 労働集約型の産業である物流業界は、深刻な人手不足が顕在化し、限られたリソース(労働者やトラック数)の中で無駄をなくし、生産性の向上を図ることが喫緊の課題になっている。一方で、日本の物流の9割以上は中小の輸送業者が支えている。運送事業者ごとに生産性の最適化を図ろうとしてもおのずと限界がある。このジレンマをいかに打開していくか。

最適な出荷計画が、最適な運送コストになる

セイノー情報サービス
鳥居保徳 代表取締役セイノー情報サービス
鳥居保徳代表取締役社長

 セイノー情報サービスの鳥居保徳社長は、「リソースを共有化するためのオープンなプラットホームを準備し、荷主企業の出荷計画情報を共有することで事前にリソースの調整を行う仕組みが不可欠です」と基本的な考え方を説明する。

 業界としてリソースを共有しようとする試みはすでに始まっている。例えば「求車求荷サービス」がある。目的地まで荷を運び終えた帰りの便などでトラックの荷台が空いている「車両情報」と、運びたい荷はあるがなんらかの理由で車両手配ができず輸送できないでいる荷主の「貨物情報」をマッチングさせ、適切な手配を行うサービスだ。

 しかし、「求車求荷では運賃条件の交渉が複雑になりがちで、契約が成立するまでに時間がかかっています。また荷主の要求が強く、出荷する荷量の平準化にはつながっていません。また早めにトラックを予約しても運賃は同じで、早めに予約するベネフィットが提供されていません。こうした課題に応え、荷主にも運送事業者にもベネフィットがあるウィンウィンの仕組みが、私たちがまとめたダイナミックプライシングのソリューションなのです」(鳥居社長)。