実績の可視化と予測の障害を乗り越えるAI

セイノー情報サービス
原謙介 知識ベース・ロボット推進室 主任セイノー情報サービス
知識ベース・ロボット推進室 原謙介主任

 詳細なシステム設計を担った知識ベース・ロボット推進室の原謙介主任は、「荷主の過去の輸送実績を分析して物流予測を立て、それに基づいて運送事業者が赤字にならない早期割引運賃を導き出す。その際、荷主にとって最適な出荷計画もアドバイスできるようにします。その全工程にAIの優れた力を活用していきます」と説明する。

 技術的には2つの課題がある。まず物流の傾向を可視化する仕組みをつくることだ。荷量の平準化と早割運賃の確定には、過去の輸送実績データに基づいた出荷予測が必要になるが、各荷主の輸送実績データの形式は異なっている。そこでWatson StudioのData Refineryというデータ加工機能を利用する。これでどの荷主からのデータも同じ形式のデータとして可視化できる。

 物流傾向の可視化には、同じくWatson StudioのCognos Dashboardというダッシュボード作成の機能を利用する。「物流の傾向を可視化することで、自社の繁忙期を把握して将来の需要を予測できるようになり、物流計画も柔軟に立案できるようになります」(原主任)。

 2つ目の課題が、物流リソースの共有を進めようとすればするほど荷物と物流リソースの組み合わせが複雑になり、出荷計画を組む難度が高まることだ。ダイナミックプライシング・ソリューションでは、荷主が出荷計画を立案し、その情報を輸送事業者と共有する。その結果輸送事業者は、需要と供給をより正確に予測できるようになり、ダイナミックプライシングを実現できるようになる。荷主は出荷計画を共有する代わりに、ダイナミックプライシングによる恩恵を受けることができ、結果として輸送コストの最適化につながるのだ。

 AIの構築にはWatson Machine Learningという機能を利用して物量予測モデルを作成している。この予測モデルをAPI経由でアプリケーションから使用することで、アプリケーションは業界全体の物量を分析し、最適な出荷計画を立案できるようになるのだ。

予測モデルは出荷計画を基にして物流費が抑えられるように最適な出荷計画を表示する。棒グラフは重量、折れ線グラフは物流費を表す。予測モデルは出荷計画を基にして物流費が抑えられるように最適な出荷計画を表示する。棒グラフは重量、折れ線グラフは物流費を表す。

 システムの試作では、3つの機能を確認できた。まず荷主自身の過去の輸送実績をグラフにして可視化されたものを確認できること。次に、出荷計画をアップロードすることでWatson Studioで作成した予測モデルによって最適なコストよる出荷計画が導き出されること。さらに予測モデルにより導き出された出荷計画を基にトラックの荷台の予約ができることだ。

ダイナミックプライシングは、サプライチェーン全体に適用できる

 AIは日ごとに荷主毎最適運賃を一覧表として示す。予測モデルによって提案された出荷計画と荷主が計画した出荷計画を比較して見ることができ、ダイナミックプライシングによる物流費の抑制が促される。それはひいては荷量の平準化につながるものだ。

 石井課長は、「Watsonは、さまざまなAIの機能が統一されたプラットフォームIBM CloudTM 上で連携して利用できます。言葉を換えれば、ごった煮の中からやりたいことを探せる裾野の広さと実現レベルの高さがあります」と語る。

 ダイナミックプライシング・ソリューションは、次の段階に向かう発展可能性も秘めている。出荷だけではなく、購買も含めた一連のサプライチェーンの最適化という領域にも踏み込めるのだ。在庫、コスト、サービスという3つの機能の最適化で考えれば、一領域の最適化にとどめる必要はないし、とどめてはいけないともいえる。

 鳥居社長は、「大手自動車メーカーの製造や物流モデルを100点とすれば、運送業界そのものはまだ50~60点程度のレベルにあり、改善ののり代は大きいと考えます。私たちセイノーグループは、お客さまが“運ぶ価値を実感できる”ことを事業の基本姿勢としていますが、お届けできる価値はまだまだたくさんあると考えています」と語る。

 運送業者には、物流の仕組みそのものを考える力と、その仕組みを創造し支えるITの力の2つが求められる。AIは、物流業界に新たな活力を与えようとしている。