EY新日本有限責任監査法人に初の女性理事長が誕生する。50歳という年齢も、理事長としては異例の若さだ。クライアントの事業のグローバル化やデジタル技術の活用など、会計監査をめぐる環境は大きく変化している。市場の番人として社会の期待に応えていくためにも、改善に留まらない監査イノベーションが必要だが、「その覚悟と準備はある」と語る。柔らかな物腰と強い信念で、国内最大級のプロフェッショナル・ファームを率いる。
多様性を強みに
女性リーダーが育つ社会へ
──初の女性理事長として指名されたときの気持ちをお聞かせください。
「よくぞ選んでくれた。さすが新日本だ」と率直に感じました。投票したパートナー500人以上の9割は男性です。女性であり、理事長としては異例の若さである自分を選んでくれたこと自体が、変化をいとわない当法人の伸びしろの大きさを表しています。
(2019年7月1日付で就任予定)1968年生まれ。1991年、明治大学経営学部卒業後、太田昭和監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人)に入所。2011年にシニアパートナー、2016年に常務理事を経て、2019年に理事長に立候補。全社員による投票、社員総会を経て、理事長就任が確定。大手監査法人で初となる女性理事長として、7月1日付で就任予定。
──日本の上場企業で女性が社長を務めるのは、わずか1%。米国S&P500社でも5%程度です。なぜ女性リーダーが増えないのでしょうか。
まず、社会構造的な問題があります。司法試験の合格者数がそうであるように、公認会計士試験の合格者数も、女性比率は2割前後で推移しています。スタート時点でそれだけの差がある上、いまでこそ少なくなりましたが、子育てなどの環境が整わずに仕事を続けられない女性もいます。必然的に、トップに上り詰める女性割合は低くならざるを得ません。
一方で、女性自身ももっと意志と熱意を持って自ら手を挙げていく必要があるでしょう。私も理事長選に出るのはもう少し待った方がいいとアドバイスされましたが、若くて女性であるという言わばダイバーシティの強みを生かすならいまだと考えて、立候補に踏み切りました。私が理事長として影響力や発信力を高めることで、チャレンジしてみようという女性が増えればうれしいですし、すでにクライアントのトップから女性役員の登用について相談される機会も増えています。
──プロフェッショナル・ファームのトップとして、ジェンダーレスやフェミニズムをどう捉えていますか。
監査法人は一人ひとりがプロフェッショナルとして価値を生み出すことが求められる組織であり、男女の境界は本来ないはずです。
一方で、性差を無視することもできません。私も昔は男性の先輩の分まで重い資料を持って走り回っていましたが、いま思えばそこは頑張るところではなかった。性差を受容した上で、会計のプロとして互いの力をどう発揮するかが重要です。
また、クライアントも会計士の性別を気にすることはありません。むしろ、求められているのは経験や業界に関する知識の広さや深さであり、それがあってこそプロとして評価されるのだと思います。