「MSマトリクス」から組織戦略を考える
続いて、組織の強化や人材育成に役立つ「MSマトリスク」について紹介。
「MSマトリスク」は、タテ軸にマインドセット、ヨコ軸にスキルを置いた、組織戦略を考える際のよりどころとなる概念図だ。マインドセットとは、当事者意識・覚悟、オーナーシップなどを指す。
上図の中のMSSはマインドセットもスキルも100%を超える経営者ゾーン。M100はマインドセットは100%を超えるゾーン。Aはマインドセットもスキルも高めのミドルリーダーゾーン。Bはマインドセットは高めだが、スキルに成長余地のあるゾーン。Cはスキルは高いが、マインドセットはあまり高くないゾーン。そして、Dはスキルとマインドセットが共に未熟な新卒社員のゾーンだ。
「高いマインドセットとスキルを併せ持つMSマトリクスの右上に多くの社員が集まる組織が、私たちが目指す『全員経営者マインドセット組織』です。この目指す組織と、社員名の付箋を貼った現状とのギャップを埋めるのが組織戦略となるわけです。全体のマインドセットを上げていくには、まずAとBゾーンのリーダー層がマインドセット100%に到達することが望ましい。当事者意識が100%ではないリーダーがいくらコーチングなどのスキルを磨いても、部下に対する説得力に欠けるからです」
下図のように、それぞれのレベルに該当する所に社員の名前を書いた付箋を貼ることで、現在の組織力を把握できるようになる。
マインドセットを上げ、戦略思考を磨く
「全員経営者弁証法的会議」
では、現状の組織を「全員経営者マインドセット組織」に引き上げていくためにはどうすればいいのか。
それには「個人のアイスバーグを大きくしていくこと」が大事だという。その方法の一つとして吉田氏は、社員のマインドセットを上げ、戦略思考を磨くことができる「全員経営者弁証法的会議」を挙げた。
会議は、参加者一人一人が主体性を持って臨み、自分の意見を臆せず発言することによってさまざまな意見がぶつかり合い、化学反応を起こしてワクワクするような優れたアイデアが生まれるのが理想だ。しかし、実際には意見や対案はなかなか出ず、議論はあまり白熱しない。そこで、吉田氏は次のような方法で全員が自分の案を発表するようにしているという。
「まず、現状の組織の課題は何かなど共通の問題に対して、各自が決まった時間(3~7分程度)で対策案を考えます。その案を紙に書いてホワイトボードに貼り、1人ずつ説明していきます。そして、出た案について弁証法を用いて議論していきます。弁証法とは、AとBという対立する考えをぶつけ合い、統合することによってCという、より包括的・創発的な高次のアイデアを生む思考法のこと。つまり、議論を通して最終的に最も優れた案へ収束させていくわけです」
こうすると、さまざまな意見を俯瞰して見ることができ、議論の質が上がる一方、自分の意見を発言するトレーニングにもなるわけだ。
MSマトリクスは採用や評価にも活用できる。吉田氏は次のようにアドバイスする。
「中途採用の場合、即戦力としてCゾーン(スキルは高いがマインドセットが低い集団)に該当する人材の採用が目立ちますが、できればこれはやめた方がいい。スキルは高いものの、個人のスペシャリティー構築への関心が強く、マインドセットを高めるのは容易ではないからです。その上、組織やチームの目的よりも自分のこだわりを優先する傾向があり、組織にブレーキがかかったり、リーダーになってもチームがバラバラでマネジメント不全に陥ったりするケースがよく見られます。むしろスキルはこれからでも、マインドセットの高い人を採用すべき。マインドセットが高ければ、スキルは入社後でもグングン上がっていくからです」
これまでとは一味違う考え方に、会場では大きくうなずく姿も見られた。