労働力減少などを背景に、真に自社の戦力となる人材の採用が急務になっている。日本企業の人材採用が抱える問題と人事部の戦略化の必要性、そして、それを解決する策として注目されるHRテクノロジーの活用について、人事経済学を専門とする早稲田大学の大湾秀雄教授に聞いた。
「採るべき人を採っていない」構造的な課題
Q 日本企業の人材採用における課題とは、どのようなものであるとお考えですか。
早稲田大学政治経済学術院教授 1964年生まれ、東京大学理学部卒業後、民間企業勤務を経てスタンフォード大学経営大学院博士。東京大学社会科学研究所教授などを経て2018年より早稲田大学政治経済学術院教授。経済産業研究所ファカルティフェローを兼任
大湾 統計的仮説検定の用語を用いて、私は「タイプ1(ワン)エラー」「タイプ2(ツー)エラー」と呼んでいますが、人材の採用には2つの大きな間違い、ミスがあると考えています。タイプ1エラーとは「採ってはいけない人を採っている」こと、タイプ2エラーとは「採るべき人を採っていない」ことです。
このうち日本企業の人事採用では、タイプ1エラーの回避に力が注がれてきました。終身雇用制を前提としているので、いわゆる「お荷物人材」を抱え込みたくないからです。また、米国企業などでは採用は現場が行っていますが、多くの日本企業の場合、採用は“人事部集権”で行われているので、人材を必要としている現場から「なんでこんなヤツを採ったんだ!」といった苦情が出ないよう、いわゆる“変人”を避ける傾向もあります。この状態では、採用はどうしても“保守的”になっていきます。しかし、社風に親和性の高い人材ばかりを採っていると、現在のように事業環境の変化スピードが速く、多様な人材を採用する必要があるときには、真に自社の戦力となる人材の採用に結びつかなくなるのです。
Q タイプ2エラーを防ぐ、つまり採るべき人を採る仕組みへの転換は進んでいるのでしょうか。
大湾 人事部はそうしたいと考えていても現実にはまだいくつもの課題があります。
例えば通常、採用面接は1次面接、2次面接、3次面接…という具合に階層的に行われますが、各段階の面接では、1~2名の社員が合否を判断します。ここでよくあるのが、面接者自身と似ている人を高評価し、自分と全く違うタイプに対しては評価が厳しくなりがちになることです。各段階で、そのような判断が続いていくと、尖った人材、個性的な人材ほど、どこかで、誰かに嫌われて落とされやすくなる傾向が出てきます。すると、最終的に残った人材は、誰も反対しないが、社内にもたくさんいるような“丸い”人材ばかりになってしまうのです。
ですから、まず、1~2名の判断に依存した階層的な判断はやめ、「チーム」で判断していくことが重要になります。個人ではなく、チームで「こういう人材が欲しい」と基準を決め、チームの刷りあわせの中で選別していくのです。そのためには、構造化問題、つまり事前に決めた質問項目に沿って応募者全員に同じ質問をすることが必要になります。これによって、面接で多様な評価側面を備えるような仕組みができます。
また最近は、面接前にウェブで適性検査を行って事前選抜をするケースが増えていますが、その際、適性検査のベンダーが用意した総合的な指標を使っている企業がほとんどです。するとどうなるかと言えば、「多くの企業から面接に呼ばれる人材」と「多くの企業から面接に呼ばれない人材」という二極化が発生します。実際のところ、大半のベンダーの適性検査は、将来の活躍人材を予測するうえで効果が高いとは言えません。応募者が適性検査に正直に答えない場合も多いですし、新卒者の能力は入社後も伸びるからです。また、適性検査は、内定者の予測力も限定的です。
つまり、将来の予測精度が高くないものが選抜の基準となっているうえ、そこで大量に人材が落とされている。その大量に落とされた人の中には、本来であれば、自社で活躍できる人材が沢山含まれているかもしれないのです。
さらに、「多くの企業から面接に呼ばれる人材」がたくさんできてしまうと、企業にとっては自社に来てくれる確率が下がるわけですから、採用効率も下がります。