人材評価のバイアスをいかに減らし、公平・公正にしていくか
Q それらの課題を乗り越えて「採るべき人を採る」には、どのような取り組みが必要ですか。
大湾 先進的な企業の取り組みなどを分析してみると、まず採用したい人材のタイプ別に、独自の適性検査の指標を作成しようとしています。これだと事前選抜で他社と競合しませんし、自分たちの採用についての考え方をより明確にもできます。
AIなどITの力、つまりHRテクノロジーを活用して、事務的な採用業務を効率化する取り組みもいいでしょう。それによって生まれた採用担当者の時間の余裕を、できるだけ面接に振り分けるようにする。その面接の際には、現場の人間を巻き込んでチームで判断するようにし、個々の面接者の“判断バイアス”を排除することが重要です。
また、将来の経営幹部層以外の採用は現場に任せるのもいいと思います。どのような人材が必要かは、現場が一番知っているわけです。各事業所、各部門で必要な人材は現場で確保してもらう。その代わり、人事部は、将来の幹部候補生だけを担当するのです。
Q HRテクノロジー活用への期待と留意点はありますか。
大湾 人事部の採用プロセスを効率化することが期待できます。ただし、データによる新たな“統計的差別”に警戒する必要があります。
ある大手IT企業が、過去の採用データをAIに与えて技術者の採用を支援する仕組みを構築したところ、AIはことごとく男性を推奨してきました。なぜなら、そのIT企業では過去、技術者の大部分が男性だったからです。結局、そのIT企業はその開発を断念しましたが、それがAI活用の落とし穴でもあるのです。HRテクノロジーの推奨を鵜呑みにするのは危険で、あくまで意思決定の支援を行うツールだと理解すべきです。
採用した人の属性データと入社後のパフォーマンスの相関データを整えたり、自社では採用しなかったが他社で活躍している人について関連データを収集し、自社にとって適切な採用基準を創れるようになるのが理想です。特に技術者の場合は、他社に採用されてからのパフォーマンスを評価しやすいので、後者の仕組みは構築しやすいでしょう。ただ、採用関係の分析でもう一つ注意する必要があるのが「セレクションバイアス」です。
Q セレクションバイアスとはどのようなものでしょうか。
大湾 自社の採用傾向を客観的に分析したいと考えても、分析のためのサンプルは自社にしかないのですから、先のIT企業のような結果を招きかねません。また採用と入社後のパフォーマンス分析でも、あくまでも採用された人が分析の対象となっていますので、本当に知りたい応募者という母集団についての結果とは必ずしも言えません。母集団と実際に使う“選ばれた”サンプルの属性の違いからくる結果のズレをセレクションバイアスと言います。
セレクションバイアスは、サンプルを母集団に近づけることやデータ補正によって減らすことができます。例えば、採用段階で言えば、採用した人も落とした人も含めてすべての応募者データを残すところからバイアスを排除する取り組みが始まります。ちなみに応募者全員の個人情報の活用については、2次使用を制限すべきとの意見もありますが、私は、応募の際に「弊社の採用プロセスの改善のために、匿名加工のうえ利用します」と一文を示し、同意の上で匿名データとして活用していくのが良いのではないかと考えています。
それらに加えて、採用におけるHRテクノロジーの活用では、応募者、候補者のデータだけではなく、面接官のデータも詳細に残し蓄積しておく必要があります。どの面接官がどんな質問をして、どんな候補者を選んだかといったデータを残すことで、面接官の採用傾向が明白になります。よくあるのは、同じタイプの人を採用する傾向がある、といったこと。これでは多様な人材の採用が難しくなってしまうので、面接官の傾向もデータ化して分析し、それをフィードバックしながら補正していくことが重要です。
採用においては、経路も含めた過程と結果、応募者、候補者、面接官のデータが全てつながっていくのが理想でしょう。