日本企業はなぜ、デジタル変革の波に乗り遅れてしまったのか。その遅れを挽回するためには、どうすればいいのか。「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」座長を務めた、南山大学教授の青山幹雄氏に聞いた。
ソフトウェア工学科教授(工学博士)
青山幹雄氏
岡山大学大学院工学研究科修士課程修了。イリノイ大学客員研究員、新潟工科大学情報電子工学科教授などを経て現職。
経済産業省が2018年9月に発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」は、各方面から衝撃をもって受け止められた。
欧米に比べて日本企業でDXが遅れている要因と、その遅れを挽回するための処方箋を、同レポートが明確に示したからだ。
「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」座長として、同レポートの取りまとめを主導した南山大学理工学部教授の青山幹雄氏は次のように語る。「DXレポートをまとめたのは、まずは産業界全体で問題意識を共有する必要があると考えたからです」。
同レポートが指摘した大きな問題点は、企業が運用しているITシステムの老朽化だ。ERP(統合基幹業務システム)に代表される企業の基幹系システムは、導入からすでに20年以上が経過したものが増えつつある。ハードウエアは更新していても、ソフトウエアは刷新されず、新たな業務に対応するための機能追加だけがどんどん行われてきた。その結果、増築を繰り返した古い温泉旅館のごとく、どこに何があるのかが分からない、迷路のようなシステムになってしまっているのだ。
導入から21年以上が経過した基幹系システムは現在約2割だが、25年には6割に達すると予測される。
データ資源を活用できないと
デジタル競争の敗者になる
老朽化したシステムは、負の遺産として企業経営を圧迫する。継ぎはぎだらけで迷路のようになったシステムでは、企業全体として組織横断的なデータ活用ができない。
「データは21世紀の石油といわれるほど、重要な資源です。そのデータを活用できなくては、企業はデジタル競争の敗者となってしまうでしょう」。青山氏はそう指摘する。
また、老朽化したシステムは維持管理のための費用が高額化する。その結果、IT予算のほとんどを維持管理に費やすことになり、デジタル技術など“攻め”の投資に振り向ける資金を減らさざるを得なくなる。これも企業の競争力を低下させる。
さらに、古いシステムを保守・運用できる人材が今後、どんどん減少していく。つまり、古いシステムを使い続けることで、サイバー攻撃にさらされたり、事故・災害でシステムトラブルが発生して業務が停止してしまったりするリスクが加速度的に高まっていくのだ。こうした事態をDXレポートでは、「2025年の崖」と総称している。
では、「2025年の崖」を乗り越えるには、どうすればいいのだろうか。端的に言えば、老朽化したシステムを一刻も早く刷新することだ。それによってさまざまなリスクを避け、DXを実現するための攻めの投資が可能になる。だが、これは大きな経営判断であるため、「経営者の意思決定が鍵」(青山氏)となる。
経営者の意思決定を促すには、DXレポートが示すファクトによって説得することが有効な方法の一つといえるだろう。同レポートが発表された後、ある企業のIT責任者は、「これでやっと社長を説得できます」と青山氏に語ったという。