経営者、業務部門、IT部門
三位一体でDXを推進

 もう一つ、DXがもたらす成果を示し、経営者を説得する方法もある。例えば、青山氏が教えてくれたのは、射出成形機で世界最大の売り上げを誇るエンゲル・オーストリア(ENGEL AUSTRIA)のケースだ。

 同社の経営トップは、顧客満足度と顧客からの信頼を高めるために、主要製品の受注から納品までのリードタイムを30%以上短縮するという目標を掲げ、それを10週間以内に達成するよう社内に指示を出した。

 射出成形機は顧客の使用目的などに合わせてカスタマイズする必要があり、納期順守率にばらつきがあった。経営トップの指示を受けてから同社が行ったのは、いわゆるBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)だ。受注から納品に至る全社の業務プロセスを分析し、ボトルネックを解消するために業務フローとデータフローを再設計し、プロセス全体を統合・制御する新たな業務システムをERP上に実装した。

 この結果、実際に10週間以内でリードタイムを45%削減、納期順守率は1年後に97%に高まったという。
「DXというと、多くの人はデジタル技術を使った新たなサービスや事業の創出のことを考えます。しかしそれだけでなく、デジタルデータを活用して既存の業務を革新し、新たな価値を生み出すこともできるのです」(青山氏)

 新事業創出でも既存業務の革新でも、DX推進においてまず大事なのは、エンゲル社の例のように経営者が変革に向けたリーダーシップを発揮すること、そして、具体的な目標を期限を定めて示すことだ。その上で、「目標に向けて経営者、業務部門、IT部門が三位一体となって推進すること。それがDXの成功事例に共通して見られるパターンです」と青山氏は言う。

 DXを推進するための前提条件は、先述したように老朽化し、負の遺産となったITシステムを刷新することだ。「2025年の崖」を迎えるまでに、残された時間は多くない。ここでも、経営者、業務部門、IT部門が三位一体となって、短期集中的にシステム刷新を推進していく必要があるだろう。