台風の日に出社しない社員は「無責任」?

 アンケートの自由回答では「出社しない無責任な社員のせいで、しわ寄せがきて迷惑」というのもあった。経営層がこういう考えだと、テレワークの導入は難しい。そういう状況にあって一部社員だけでなく、より多くの社員がテレワークの恩恵を受けられるようにするにはどうすればよいのだろうか。

大川氏「一部だけでなく、全員が使うことを前提で取り組みを始めることが重要なのです」

 大川氏はテレワークに必須のビデオ会議システムについて「携帯電話と同じように仕事に最低限必要なツール」という。そして、「全員が使えるからこそ効果がある。携帯電話だって一部の人が持っていても役に立たないですよね」(大川氏)。アンケート回答には「働き方改革の導入によって人や部署によって業務量の偏重が起きている」という意見もあったが、これも「一部の人や部署だけが使えるツールを導入したら、その人に業務が集中するのも当然ですね」と大川氏は分析する。このような業務の偏重は、一部の人だけが直行直帰できたり早く退社できたりと、感情的な不公平が生まれる要因にもなり得る。

大川寛幸氏
IIJグローバルソリューションズ 営業本部 営業開発部 シニアコンサルタント

ビデオ会議システムは距離を、ビジネスチャットは時間のズレを埋めるもの

 どんな職種でも、職場に出社して何も言葉を交わさずに帰る人はそうそういない。仕事に関係ない話題や、ちょっとしたあいさつや雑談でも、何かしらの会話はする。「ビデオ会議システムと呼んでいますが、使う場面は会議じゃなくてもいいんです」と大川氏が言うように、コミュニケーションツールの1つとしてビデオ会議システムを活用するのもテレワークを実現する有効な手立てだ。ここで「コミュニケーションなら、ビジネスチャットを使えばいいじゃないか」と思う人も多いかもしれない。しかし、大川氏は「チャットは時間のずれを埋めるツール。ビデオ会議システムは離れている距離を埋めるツール」と説明する。お互いの顔に浮かぶ表情を読み取ることができるコミュニケーションだからこそ、離れた距離を埋めて同じ空間にいるような意識を可能にしてくれる。

 ただ、ここまでの「見る・聞く・話す」といったコミュニケーションは、意思疎通のための動作に過ぎない。「3年前ぐらいから、コラボレーションツールという言葉が注目されています」と大川氏が言うように、単なる意思疎通だけでなく、コラボレーションを可能にするツールが求められるようになってきた。コミュニケーションとコラボレーションは、何が異なるのか。「コラボレーションとは、コミュニケーションを重ね、互いの理解を深めた上で成果を生み出す行為」と大川氏は説明する。

 このように、大川氏をはじめとするビデオ会議システム導入を勧める当事者たちは、仕事改革の本質的な目的を「コラボレーションツールを導入したことで高い効率で成果物を生み出し続けること」と考えているが、導入した企業や組織の多くでは「導入すること」が目的になってしまっていると指摘する。