パナソニックは1957年から、60年以上にわたって空調事業に取り組んでいる。現在は国内だけでなく中国やアジア、欧州など積極的にグローバルでの事業展開を進めている状況だ。パナソニックの空調事業はどこに強みがあり、今後どのように事業を展開していこうとしているのか。パナソニックの空調事業の強みについて、アプライアンス社 上席副社長(兼)空調冷熱ソリューションズ事業部長である高木俊幸氏に聞いた。

 パナソニックの空調事業は同社のパナソニックブランドの中でも最大規模の事業体だ。津賀一宏社長は2019年5月に発表した新中期戦略の中で空間ソリューションを基幹事業として拡大すると発表しており、空調事業もその一部として成長を期待されている。家庭用空調は国内およびアジア主要国でもトップクラスのシェアを持つパナソニックは、グローバルでの成長を目指す上で近年は業務用空調に力を入れている。

エアコンは基幹事業の一つで、家庭用に加えて業務用に注力

アプライアンス社 上席副社長(兼)空調冷熱ソリューションズ事業部長 高木俊幸氏アプライアンス社 上席副社長(兼)
空調冷熱ソリューションズ事業部長 高木俊幸氏

 パナソニックの業務用空調の強みについて、高木事業部長は「電気空調とガス空調の両方を提供できる点にあります」と語る。

「当社の業務用のガス空調は大規模なNC(吸収式冷凍機)とGHP(ガスヒートポンプ)の両方でトップクラスのシェアを持っており、NCは大規模施設や地域冷暖房などに利用されています。首都圏の再開発物件や、大規模スポーツ施設などでも利用されています。GHPはガスを使うため、学校など夏場の電力需要のピークとなる昼間に多く空調を使う施設に導入されています」(高木事業部長)

 地震大国で台風などの災害も多い日本では、災害時に一部地域が停電になることも少なくない。その様な中でも各都市ガス事業者の高圧・中圧ガス導管は阪神・淡路大震災、東日本大震災クラスの大地震にも耐えられる構造となっている。

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「当社は発電機能が付いているGHPも販売しており、学校や病院、公民館など避難所に使われる施設への導入が進んでいます。万一のときでも空調を利用できるだけでなく、照明やコンセントにも利用でき、スマートフォンなどの機器への充電もできるため、近年ではBCP対応としてご利用いただいているお客さまが増えてきています」(高木事業部長)

中国、アジア、欧州とグローバルに拡大

 日本国内の家庭用、業務用エアコンだけでなく、海外への進出も進んでいる。日本国内のエアコン普及率は90%を超えている一方、東南アジアでは普及率がいまだにかなり低い状況だ。最も普及が進むシンガポールでも80%には満たない状況で、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムなどの主要国はそれより低い水準である。

「注力したいのは中国で、続いてアジア、それから欧州が最重点地域となっています。その次に控えるのがインドです。まだ普及率は10%未満と低いのですが、今後巨大市場になると考えており、インドの製造拠点を核に戦略を進めています」(高木事業部長)

 欧州では09年から空調専門の販売会社を設立して販売拡大を進めており、中国でも18年に空調専門の販売会社を設立し、販売拡大を目指している。

「アジアはパナソニックの家電のイメージが強い地域ですが、業務用は開拓が必要で、順次展開を進めています。マレーシアは4月から、ベトナムやフィリピンは10月に家庭用・業務用を併せて取り扱う空調専門販売組織を設立し、インドネシアなども20年度に向けて準備している状況です」(高木事業部長)

 日本ほど夏の暑さが厳しくないこともあってエアコンの普及率が低い欧州だが、「地球温暖化問題を背景に市場全体として空調が伸びています」と高木事業部長は語る。

「ここ1~2年で市場環境が大きく変わっており、いろいろな国でガスボイラーの規制が始まっており、『Air To Water』と呼ばれるヒートポンプ式の給湯暖房機の普及が進んでいます。日本の『エコキュート』で培った技術を生かせるため、今後力を入れていきたいと考えています」(高木事業部長)

 欧州ではまだ大きなシェアを取れていないこともあり、積極的に地元企業との協業を進めている状況だ。16年にはシュナイダーエレクトリックとエネルギーマネジメントの連携・営業で提携をスタートし、17年には英国の空調機器販売会社A.M.P.を買収。19年2月にスウェーデンのシステムエアー社と業務用・家庭用分野の空調と換気の統合ソリューション開発に向けた戦略的な提携に合意。19年10月には東南アジアの大型施設向け空調の開発・販売に向けてウェルカム・エアーテックとの提携を発表し、今後セイバー社のAHU(エアハンドリングユニット)をアジアの空調専門販売会社で取り扱っていく。

 「我々が持っていない商品、及び我々が持っていない販路は、積極的に協業を進めていこうと考えています」と高木事業部長は語る。