生活の中での空気の質向上には「換気」との連携が重要

 さらに高木事業部長は、「空気の質を高めるためには『空調』だけでなく『換気』との組み合わせが重要です」と語る。空調機器は室内の空気をコントロールするものだが、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)など省エネルギー住宅の開発が進む中で、住宅の気密性が格段に向上しており、空調機器だけで室内空気の質を維持・向上するのは難しくなりつつある。

QAFL(Quality Air For Life)QAFL(Quality Air For Life)ショールーム

「われわれは海外で事業を進めていく中でパナソニック アプライアンス社が手がける空調事業と、パナソニック エコシステムズ社が手掛ける換気事業との連携を強化し、『QAFL(Quality Air For Life)』をキーワードとして訴求しています。特に進んでいるのが中国です。中国では空調と換気を一つの事業体として進めており、一緒になったからこそできる新製品の開発を始めています」(高木事業部長)

 例えば「全熱交換器」と家庭用エアコンとの組み合わせによる販売展開だ。

「日本の家庭やマンションで要望されることは少ないですが、中国やアジアなどでは『全熱交換器』と呼ばれる換気システムの需要があります。窓を締め切っていると二酸化炭素濃度が高まるために換気が必要になりますが、夏に換気すると冷たい空気が逃げてしまいます。そこで暖かい外気を中に入れるときに温度だけは冷たくして換気するというものです。これをエアコンと一緒にマンションに納入するなどといった動きが出てきています」(高木事業部長)

成長を支えるインフラの構築

 国内とグローバルでの成長を支えるインフラとして、SCM(サプライチェーン・マネジメント)も含めたIT改革についてもかなり力を入れているという。

「国内外に開発拠点や生産拠点がありますが、どこの開発拠点で開発した製品でもどこの生産拠点でも生産できるように品番体系や開発ツール、PSI(生産・販売・在庫)管理の仕組みなどのグローバルでの全体最適を進めています。1~2年でできるものではなく、5~6年がかりの取り組みですが、ようやく道半ばまで来ました。今後も継続しながら、あと数年で出来上がると思っています」(高木事業部長)

地球温暖化でエアコン業界が大きく変わる

 国内だけでなくアジアや欧州などにも着実に事業を広げているパナソニックだが、地球温暖化という大きな課題があることから、エアコン事業はグローバルで今後大きく変化を遂げる可能性がある。

 その鍵を握るのが「冷媒」だ。エアコンの熱交換に用いられる冷媒にはフロンガスが用いられていたが、地球温暖化の問題が指摘されてから「代替フロン」や「ノンフロン」が用いられ始めている。現在、日本や欧州、アジアなどの家庭用エアコンでは不燃性で安全だが地球温暖化係数の高い「R410A」から、地球温暖化係数(※)は低いものの微燃性のある「R32」に移行している。しかし安全性の問題もあってビル用エアコンなどにはまだ採用されていない状況だ。

※地球温暖化係数(GWP=Global Warming Potential)……二酸化炭素を基準に、他の温室効果ガスがどれだけ温暖化に影響を与えるかを表した数字のこと。

 一方、米国では微燃性冷媒の使用が禁止されていたのだが、家庭用だけでなく業務用エアコンでも地球温暖化係数の低い微燃性冷媒を解禁する動きが出てきた。

「日本ではビル用マルチエアコンでもまだ使用できない状況にもかかわらず、家庭用でも業務用でも使えるようにするというわけです。しかもAHRI(米国冷凍空調工業会)がその基準作りを進めており、日本のメーカーにも協力を要請している状況です。環境先端のカリフォルニア州だけでなく、ワシントン州など全米に広がるのではないかとみられています」(高木事業部長)

「空調業界はグローバルでまだまだいろいろな変化が起きるでしょう。その変化に対応できなければ生き残れない状況ですが、そこは技術力のある日本メーカーの非常に得意とするところです。日々のビジネスで販売利益を求めるだけでなく、将来にわたってどこに投資していくのかも重要です。われわれ空調事業としては空調・空質ソリューションを提供することでより良い空間価値を創造するとともに、さまざまな社会課題の解決に貢献していきたいという思いで事業を進めています」(高木事業部長)