地域社会の経済活性化にも貢献する、英国の洋上風力発電

国際通商部 宮北幸代・上席商務官宮北幸代
国際通商部 上席商務官

 国際通商部の宮北幸代上席商務官は、「英国には大規模なデベロッパー(開発業者)が存在しないため、政府は定期的に電力買い取り価格のオークションを実施し世界から投資を募り、外資系の企業を上手に取り込みながら、地域のサプライチェーンを構築しています。そして、デベロッパーやパブリックセクター、教育機関が連携したクラスターを整え、生産性や競争力向上、イノベーションの創出を通じて地域経済の成長を後押ししています」と語る。

 洋上風力発電のプロジェクトには、プロジェクト管理や建設、運転や保守というウィンドファーム(集合型風力発電所)の全要素が含まれ、地域に雇用を生み出す。英国政府は30年までに洋上風力発電の設備容量を30GW(現在の約4倍)に拡大する予定で、約2万7000人の雇用を創出すると見込んでいる。同時に、国内部品の調達率60%を達成する目標も掲げている。
 
 そもそもなぜ英国は、洋上風力発電を推進するようになったのか。

「英国にはもともと、北海油田のオイル&ガス事業のエンジニアリングで培われた技術があり、それが強みとしてあります。洋上の構造物や、海底・海中調査などのノウハウは、洋上風力発電の設置にも生かされており、実際にオイル&ガスの分野で強みを持つ企業が洋上風力発電に参入するケースが多くなっています」(宮北上席商務官)

 英国政府は、洋上風力発電に革新技術を導入するため、13年に英国の研究・試験施設と専門家が結集した英国洋上再生可能エネルギー・カタパルト(Offshore Renewable Energy Catapult)を創設。同時に巨額の公共研究開発(R&D)費を投入し、風力タービンの大型化による定格出力の向上をはじめとする各種イノベーションを通じて、ここ数年で大幅なコスト削減を実現している。

英国内に8カ所ある洋上風力発電のクラスター(集団)のうち、ハンバー(Humber)のプロジェクト・オーラではハル大学を中心に産業、地方政府の支援、教育機関など官民が一体になりクラスターを形成している英国内に8カ所ある洋上風力発電のクラスター(集団)のうち、ハンバー(Humber)のプロジェクト・オーラではハル大学を中心にメーカー、開発者、サプライチェーン、学術界、イノベーション機関など官民が一体になりクラスターを形成している
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 その英国政府が今取り組んでいるのが、洋上風力発電の世界市場に最先端のスキルや専門性を提供すること。その重要なターゲットの一つが日本市場だ。

 日本は英国と同じ島国で国土も広くないことから、洋上風力発電の市場として潜在的に大きな可能性があると見なされている。ただし水深の浅い大陸棚の多い英国と違い、日本は海底が深いため、着床式(基礎が地面に固定されたもの)ではなく浮体式(洋上に浮かんだ浮体式構造物を利用したもの)の洋上風力発電が求められる。

「現在英国では、世界各地の水深の深い海域への設置に対応するため、浮体式構造のイノベーションにも取り組んでいます。すでに日本の商社や電力会社の一部が、英国の洋上風力発電のプロジェクトに投資しており、英国企業とのパートナーシップを基に、その技術やノウハウを日本に導入する試みが始まっています」(宮北上席商務官)