原子力発電所の廃止措置を安全に進め、脱炭素化を推進する

国際通商部の原子力担当である荻原澄恵商務官荻原澄恵
国際通商部 商務官(原子力担当)

 その一方で、英国が脱炭素化に当たり、再生可能エネルギーの他に不可欠なエネルギーとして捉えているのが原子力発電である。現在、英国の電力に占める原子力発電の割合は約20%だが、英国は廃止措置と新規建設を組み合わせて、その割合を将来も維持していく考えだ。

 国際通商部の原子力担当である荻原澄恵商務官は、「英国は1956年に世界で初めて民生用原子力発電所(コールダーホール)の建設をし、40年代から原子燃料生産・再処理も行うなど、安全性の高い原子力発電所の運転と廃止措置の経験において、世界をリードする存在です」と説明する。

 英国と日本は、60年代の東海原子力発電所(茨城県東海村)の共同建設以来、原子力の歴史を共有しており、老朽化した原子力施設の廃止措置は、両国に共通する課題となっている。

 原子力発電所の廃止措置は、あくまで原子力サイクルの一工程で、安全かつ効率的に、コストをかけずに実施することが重要となる。過去の英国では、最先端技術を使用することを重視し過ぎる傾向があったが、原子力発電所の廃止措置は数十年単位の長期の作業になるため、現在ではその廃止措置のプロセスをいかに管理するかが重視されている。

 革新的な技術ソリューションの導入と並行して、目的に合わせた「人」と「プロセス」を適切に配備することが、効率的に廃止措置を進める鍵になる。すでに英国では30年以上にわたって廃止措置に取り組んでおり、その知識や経験は日本で生かされるはずだ。

スコットランド北部のドーンレイ高速増殖炉。英国は原子力発電に関して70年以上の経験と知識を併せ持っているスコットランド北部のドーンレイ高速増殖炉。英国は原子力発電に関して70年以上の経験と知識を併せ持っている

 すでに福島第一原子力発電所の廃止措置に関して、英国の企業が協力を行っている。例えば、3Dマッピングで放射線を視覚化する技術を持つ企業や、廃止措置のプロジェクトを計画し管理をサポートする企業が、福島でサービスを提供しているのだ。

「日本原子力研究開発機構(JAEA)は長年、英国原子力廃止措置機関(NDA)と協定を結んでおり、日本の高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)の廃止措置にも、スコットランド北部のドーンレイ高速増殖炉で同型の廃止措置の経験を持つ、英国の知見が生かされています」と荻原商務官は、原子力における日英両国の強い結び付きを指摘する。
 
 島国である日英両国は、古い原子力発電施設が、スペースの限られた海岸沿いの農村地域に位置している共通点を持つ。地域住民への説明や、廃止措置後の用地の利用についても、日本は英国に学ぶ面が多くあり、今後も日英両国の経験の共有は続く。今脱炭素化に向けて求められているのは、業界やステークホルダー(利害関係者)の「原子力施設の効果的な運転」から「卓越した廃止措置実施」への意識改革ともいわれている。

「テック・ロケットシップ・アワード」で、日本のスケールアップ企業を発掘

 駐日英国大使館では、20年2月17日から28日までの約2週間、「Clean Growth Week(クリーン成長週間)」という名称でイベントを開催する。期間中は、洋上風力発電産業に関連する英国企業15社が参加するトレードミッション(展示会・商談会)や、原子力の日英協働を成功させる環境づくりをテーマにした、日英原子力産業フォーラムなどが行われる。

 また期間中の2月19日には、脱炭素化を進める英国で、今どのような投資の機会があるのか、先進的なスマートシティープロジェクト・最新テクノロジーの紹介や、各種ファンドの情報を含めて、日本の投資家向けのイベントが開催される。

 イベントを締めくくるレセプションでは、日本の革新的なテック企業を表彰する「テック・ロケットシップ・アワード」が実施される。アワードの対象企業は、革新的かつテクノロジー主体の日本のスケールアップ企業で、英国未進出の会社。また将来的に英国でのビジネス展開に関心を持つ会社である。アワードの受賞企業は、英国の最先端のテクノロジーを体験できる英国視察ツアーに招待され、英国政府が成長のチャンスをサポートする。アワードには4分野あり、その一つが「Clean Growth」。プロジェクトの規模に関わらず、脱炭素化に挑戦するスケールアップ企業を応援する予定だ。

国際通商部の小川逸佳・対英投資上級担当官小川逸佳
国際通商部 対英投資上級担当官

 国際通商部の小川逸佳・対英投資上級担当官は、「英国には、欧州のブレーンとしての能力と実績があり、スタートアップを支えるエネルギッシュなエコシステムが構築されています。欧州のAIスタートアップの約半数が英国企業で、IPO(新規株式公開)企業、ユニコーン企業は欧州最多。投資は活況で、教育水準が高く、柔軟性を持った世界トップクラスの人材が集積しています。受賞企業には、欧州進出の足掛かりとして、まずその第一歩を英国から始めてほしいと考えています」と期待を語る。

 カウワン担当部長は、最後にこう締めくくる。

「気候変動は地球の危機ですが、むしろそれをビジネスチャンスと捉えてほしい。英国のクリーン成長戦略を見て分かるように、脱炭素化と経済成長は両立します。その英国の知見が生かされる、日英のコラボレーションが数多く成立することを願っています。今年11月にイギリスで開催する予定のCOP26(気候変動枠組条約の第26回締役国会議)と世界の脱炭素の必要性を背景に、2月17~28日の二週間、英国大使館ではClean Growth(脱炭素と経済成長) GREAT Weekを開催し、さまざまなイベントを予定しています。アフリカ地域での日英協力による再生可能エネルギーの供給といった第三国での取り組みについてもこの間協議します。Clean Growth GREAT Weekを通じて日英のコラボレーションをこれまで以上に深化させることを期待しています」

クリーン成長ならびにClean Growth GREAT Weekに関連する情報はこちらでご覧頂けます。