経営にはサイエンスとアートのバランスが必要だといわれる。「Soup Stock Tokyo」を展開するスマイルズの遠山正道社長はアートに造詣が深く、「CROSS-OVERシナジー戦略」で成長を続けるアイルの岩本哲夫社長は、ミュージシャン志望だったこともあり、音楽で培った感性をビジネスの現場にも生かしている。その両者がビジネスとアートとの関係、理想とする組織づくりなどについて語った。

ビジネスもアートも「自分ごと」が起点

──絵画、音楽と分野は違いますが、お二人とも芸術や文化に強い関心をお持ちです。ビジネスとアートの関係について、どのようにお考えですか。

遠山 私は総合商社にいたのですが、入社10年目に絵の個展を開きました。それがきっかけとなって「Soup Stock Tokyo」(スープストックトーキョー)の創業につながりました。スマイルズという会社を立ち上げてから20年になりますが、私としては個展の延長でやってきた感じですね。

 アートとは「何かをつくり出すこと」ですが、それはビジネスにも重なります。そして、両方とも「自分ごと」であるかどうかがとても重要。アートは自己表現という究極の「自分ごと」ですし、ビジネスも自分でやってみたいという思いや自分がやることの必然性、意義がないと踏ん張れない。

[特別対談]ビジネスとアートの関係そして、理想の組織づくりアイル代表取締役社長
岩本哲夫
Tetsuo Iwamoto
大学時代はミュージシャンを目指していたが、卒業後、大手情報サービス会社に入社。 情報システムのトップセールスマンとして活躍した後、1990年に退職。
91年にアイルを設立し、代表取締役社長に就任。
アイルは、2007年6月ヘラクレス(現JASDAQ)、18年6月東証2部、19年7月東証1部に上場。
アイルの成長を評論家の鶴蒔靖夫氏が描いた著作に『創発経営─アイルの常識は業界の非常識─』(IN通信社)がある。

岩本 同感ですね。私がいつも思うのは、人は気持ちで動きますし、好きなことは無我夢中でやるということです。

 私は、お客さまとの商談をライブだと思って楽しんできました。お客さまに私という人間を知っていただき、お客さまのためにどう役立つことができるのかを、一度きりのライブだと思って熱く語り掛け、理解していただく。そのように仕事を楽しむことで、前職では営業マンとしてトップの成績を上げることができましたし、アイルという会社を東証1部上場企業にすることもできました。私にとって仕事とは究極の遊びであり、私の感性や想像力を最も発揮できる場なのです。

 ですから、社員全員が仕事を楽しめるようにすることが、私の理想です。誰かにやらされるのではなく、「自分ごと」として仕事を楽しんでほしい。もちろんそこには「自律と責任」が伴いますが、社員が伸び伸びと働き、自分がやりたい仕事に無我夢中で取り組める環境を整える。それが、トップとしての私の仕事だと思っています。

遠山 私は個展を開いたことで三つのものが生まれたと思っています。一つ目は、私にとって初めての意思表示だったこと。サラリーマンでしたから、会社の都合や上司の命令で動いていたわけですが、個展は誰に言われたのでもなく、自分の思いでやりました。二つ目は自己責任です。誰かに言われて始めたことではないので、他人のせいにするわけにもいかない。だからこそ、個展が終わったときには非常にやりがいを感じました。

[特別対談]ビジネスとアートの関係そして、理想の組織づくりスマイルズ代表取締役社長
遠山正道
Masamichi Toyama
慶應義塾大学商学部卒業後、三菱商事入社。 1999年に「Soup Stock Tokyo」1号店を開店。
2000年、三菱商事初の社内ベンチャーとしてスマイルズを設立。08年、MBO(経営陣が参加する買収)により、三菱商事退社。
ネクタイブランド「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、 ファミリーレストラン「100本のスプーン」なども展開。
著書に『スープで、いきます』(新潮社)、『やりたいことをやるという ビジネスモデル──PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)などがある。

 そして、三つ目としてスープストックトーキョーが生まれた。自分たちでつくって、世の中と直接コミュニケーションを取っていく、それを形にしたのがスープストックトーキョーです。

 アートは何もないところから、形を生み出していきますが、例えば彫刻家は材料を目の前にしたときに、彫り上げる像がイメージできている。ビジネスも周りを巻き込みながら自分の頭の中のイメージを形にしていくという点で、アートと共通していると思います。

岩本 学生時代の試験は正解が一つしかありませんが、社会に出ると正解は一つではありません。何が正しいかは自分で決めなくてはならないし、自分が正しいと思ったことを具体的な形にしていくプロセスが仕事だとも言える。

 ですから、「空振りしてもいいから、思い切りバットを振れ」と社員に言っています。それで失敗してもとがめないし、そこをフォローするのが上司の仕事です。