感動が人を育てパッションの源になる
マーケットが供給過多の時代には、「子どものまなざし」と「大人の都合」の両方が必要で、そのバランスが大切(遠山:右)
岩本 私も売り上げや利益を追い掛けて経営をしているわけではありません。上場企業ですから経営数値は細かく管理していますが、追求しているのは「いかに世の中から必要とされる会社になるか」ということです。売り上げや利益は、世の中からの評価の結果でしかない。
当社では「CROSS-OVERシナジー戦略」と言っていますが、基幹系システムとウェブ系システムの両方を有機的に結合できる技術、提案型営業ができる力、そして、メンテナンスやセキュリティー対策などを含めてワンストップでお客さまをサポートできる力、それらが相乗効果を発揮して他社にはできないITサービスを提供できる。だから、大手と競合しても当社は負けないし、お客さまのリピート率は98%を超えています。お客さまに必要とされているからこそだと自負しています。
遠山 会社での会話は、数字とか原材料とか、言語化しやすいものに終始しがちですよね。でも、例えば、レストランでいえば、メニューには書かれていないシェフの思いとか、開店に至るストーリーとか、言語化しづらい部分に本当の価値があったりします。具体と抽象を行き来しながら、価値観の優先順位をはっきりさせていく。それが、「子どものまなざし」を失わずにビジネスを成立させるための、ポイントの一つかもしれません。
岩本 私は数字を追わないと決めているので、社員にも業績ノルマを課しません。会社をもっと大きくしようと思えば、いくらでもできますが、それではアイルが大切にしてきた価値を失ってしまう。
社員が無理をして頑張らなくても、競争に勝てる仕組みを作るのが経営者の仕事だと思っているので、その仕組み作りは徹底してロジカルに考えています。
──最後に、これからの時代に求められる人材像について、お二人の考えを聞かせてください。
遠山 私はこれからの世の中は、ビジネスを含めてどんどんプロジェクト化していくと思っています。プロジェクト化が進む結果、企業も仕事も細分化していくと思うのですが、そのときに人は三つのタイプに分かれます。自分でプロジェクトを仕掛ける人、プロジェクトからお声が掛かる人、そのどちらでもない人の3タイプです。
もちろん、どちらでもない人にはならない方がいい。会社に割り当てられた仕事をこなしてきた人たちは、これまでお声が掛かるのが当たり前だったけれど、この先もずっとお声が掛かり続けるかどうかは難しい。
ですから、これからは自分でプロジェクトを仕掛けていくことも必要です。自分で仕掛けるのはもちろんリスクもありますから、小さなプロジェクトを立ち上げてそれを磨き上げていく。小さくてもユニークなビジネスを起こして、それを拡大することでやりたいことを実現できるのであれば大きくすればいいし、自分よりうまく回していける人がいれば任せてもいい。
私は事業を立ち上げるのは得意ですが、運営は私よりうまい人がいくらでもいるので、任せています。現場が私より偉いから、口が出せない(笑)。
岩本 私も現場の意思決定は現場に任せています。私に稟議を上げる必要がないから、アイルは仕事のスピードが他社より圧倒的に速い。それができるのは、「月次報告会議」で会社の現状を包み隠さず社員と共有し、私が書いた「社長所感」でビジネスに関する基本的な考え方を伝えるなどして、私と社員のベクトルを一致させているからです。
これからの時代に求められる人材像という質問ですが、楽しさが人を動かすということは、いつの時代も変わらないと私は思います。
ただ、楽しさというのは、難しさと表裏一体の面もあります。誰でも簡単にできることをやってもうれしくないけれど、例えば、難しいギターのフレーズが弾けるようになると、音楽をもっと楽しめるようになりますし、うまい人たちとセッションしてお客さまが盛り上がってくれると、言葉にできない感動を味わうことができます。そうした感動が人を育てるし、パッションの源になる。仕事を通じて感動を味わえるようにすることも、私の仕事だと思っています。