シアトルに似た自然環境と人口160万人の巨大市場

 移住を機に起業を目指すビジネスパーソンも多いはずだ。福岡市は人口約160万人、市内総生産(名目)約7兆7000億円(「16年度 福岡市民経済計算」)、市民所得約5兆2000億円(同)という巨大マーケットが控えている上に、国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されており、スタートアップには絶好の環境が整っている。

「福岡市はシアトルに似ている」と話すのは同市・田中顕治創業支援課長。シアトルは米国の首都ワシントンから遠い北西部の温暖な港湾都市。マイクロソフト、スターバックス、アマゾンといったグローバル企業が生まれた。福岡市も温暖なコンパクトシティーで自然や文化が豊かで大学が多い。また、東京に比べてビジネスコストが低い。例えば、オフィス平均賃料は東京の約5割。東京が1坪当たり2万2000円なのに対して、福岡市は約1万円(19年12月の平均賃料。「オフィスマーケットデータ」三鬼商事)だ。

 ビジネス環境はどうか。出張の多いビジネスパーソンがまず思い浮かべるのが、抜群にアクセスのいい福岡空港の存在だろう。東京(羽田空港)~福岡空港間は便数が多い上に、フライト時間はわずか90分。機内で書類に目を通す間もなく着いてしまう。空港から陸の玄関口博多へは地下鉄で5分、繁華街の天神へは11分だ。

(左上) 福岡市の中心街天神のきらめき通り(写真提供/福岡市)
(左下) 都心部からも気軽に行ける油山牧場(写真提供/福岡市)
(右) アクセス抜群な福岡空港(撮影者/Fumio Hashimoto)

 近年全国の自治体が起業支援に力を入れているが、福岡市の起業支援体制は手厚く、歴史も長い。12年9月、「スタートアップ都市ふくおか」を宣言して、行政として「上から目線」で支援するのではなく、起業家やエンジニアと「同じ目線」で支援を行うことを大きく打ち出した。

 14年5月には、「グローバル創業・雇用創出特区」に指定を受け、市の独自施策と組み合わせてさまざまなスタートアップ支援を開始。まずは、創業相談窓口である「スタートアップカフェ」を14年10月にオープン。夜間や土日にも相談可能となっており、コンシェルジュの常駐のみならず、デザインにもこだわることで創業相談の敷居を下げている。

 また、外国人の創業活動を促進するための在留資格の特例措置「スタートアップビザ」を導入することで、海外の起業家も呼び込んでいる。