これからのキャリア形成は、外部環境の激しい変化による企業の短命化や技術革新による職業の変化、働く期間の長期化などから、より主体的に考えることが必要だ。そうした中、「学び」によって自律的にキャリアを形成していくビジネスパーソンが増えている。彼らが目指しているのは、普遍的にビジネスの現場で通用する「ポータブルスキル」の習得だ。このスキルがなぜ重要なのか、何をどのように学べば身に付くのか。グロービスで企業の人材育成に長年携わっている井上陽介氏に聞いた。
キャリアアップのための強い武器を獲得する
グロービス・デジタル・プラットフォーム
マネジング・ディレクター
ポータブルスキルとは、持ち運びできる仕事上役立つ知識――どの業界のどのような職種の仕事であっても使える知識のことだ。
グロービスで学生や卒業生のキャリア支援に関わりつつ、企業の人材育成にも長年携わっている井上陽介氏は、全てのビジネスパーソンのキャリア形成において、ポータブルスキルは不可欠だと言う。
そして、ロールモデルとして次のようなケースを挙げた。
大手小売業の役員だったA氏は、30代前半にある店舗の変革を、30代後半にはある地域からの撤退を、40代では人事の変革を担当した。50代で退職すると、業種が全く異なるエレクトロニクス分野の企業に転職し、代表取締役社長に就任したという。
「A氏の言葉を借りると、『30代から実績を残し、業界が変わっても成果を出すことができるのは、ビジネススクールに通って“定石”を学んでいたから』。つまり、普遍的なポータブルスキルを学び、実践してきたといいます。それが、異業種に転身しても役立ったというわけです。これからの時代、A氏のような人材が業界横断的に活躍する場が増えていくのではないでしょうか」
環境変化に対応し、分野・業界の垣根を越えなければならない
井上氏は、その理由として、近年増加傾向にある日本企業によるM&A(2019年現在、3年連続で年間最多件数を更新中)や、ベンチャーキャピタル(VC)による国内投資額の増加(19年上半期に半期ベースで初めて1000億円を突破)があると言う。
「M&Aは海外だけでなく、国内でも活発に行われるようになり、買収によって突然、親会社が変わるといったことが普通に起こる時代になっています。買収される側のビジネスパーソンにとっても、キャリアアップのチャンスとなるため、決して悪いことではない。ただ、事業の統廃合によって上司やチーム、担当業務などが変わりますから、環境変化に柔軟に対応し、能力を発揮できる人材が求められています」
また、VCの国内投資額増加が物語るように、日本でもスタートアップが台頭。以前では考えられなかったことだが、スタートアップが大企業の競合相手になったり、コラボレーション・パートナーになることも多い。業界の垣根を越えて異分野間のコラボレーションが増え、ビジネスモデルもどんどん変わっていく。従来とは異なるアプローチが求められ、「越境しなければならない範囲が広がっています」と井上氏は言う。