専門性を高めた先にあるもの
事業の変革があらゆる産業で起きている今、異業種とのコラボレーションで新たなビジネスを創出し、新たな価値を創造するためには、単に日々の仕事を積み重ねているだけでは対応できない。キャリアの考え方も変わり、一度入社したら定年まで勤めるという考え方にもリスクが付きまとう。
人生100年時代といわれ、60代、70代まで働くなど、人生の労働時間が増えている。定年後に起業したいと考える人も増えてきた。
井上氏は、こうした時代に対応するためには、「専門性を身に付けるだけでは足りない」と言う。井上氏が長年幹部候補育成に携わっているあるメーカーを例に挙げて説明する。
「そのメーカーの幹部候補育成では、30~40代前半を中心にメンバーを選抜しています。6~7割がエンジニアです。幹部候補ですから、当然、所属部署で能力を発揮するための専門スキルを身に付けています。しかし、新規プロジェクトや事業変革のリーダーに抜てきするためには、メンバーをまとめる力や他の部署や事業パートナーとの折衝が求められますから、特定の専門スキルを磨いているだけでは次の段階にステップアップできないのです。
自分がやっている仕事を事業全体の視野から捉えることができるか。現状を多面的に分析し、事業の変革プランを描くことができるか。そして他の部門を巻き込みながら新しい価値を創造するための思考ができるかどうか。確実に活躍の場を広げていける(幹部として抜てきされる)人と、そうでない人の違いが、そこにあります」
では、このような抜てきされる人が持つ力は、学習することが可能なのだろうか。井上氏は、「これこそ、ポータブルスキルであり、後天的に学習が可能」と言う。
優れた先人による普遍的なビジネスの知恵を学ぶ
職場やビジネスを取り巻く環境が変わっても、一生使えるポータブルスキルを身に付けるために、まずは、何をどのように学べばいいのか。前述のA氏が学んだ“定石”とは何だったのか。
井上氏は、スキマ時間に手軽に学べるサービスとして、「グロービス学び放題」を挙げた。「グロービス学び放題」なら、パソコンやスマートフォンがあれば、いつでもどこでもビジネスナレッジを動画で学習することができる。動画コンテンツの大本になっているのは、累計150万部売れているグロービスのMBAシリーズの本。経営の原理原則は、ほぼ全て網羅されている。
動画で学べる”定石”の一例として、リーダーシップ論の第一人者であるジョン・P・コッター・ハーバード大学名誉教授のリーダーシップ論を挙げた。コッター名誉教授は、多くの企業が変革に失敗している点に着目して、失敗の理由を解明するとともに、組織変革の成功確率を高めるためにフレームワーク化した8つのプロセスを整理した。
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この「企業変革における8つのプロセス」は、いわば優れた先人による普遍的なビジネスの知恵であり、その知恵に基づいて実践することで、成功確率が上がるわけだ。世界中で多くのリーダーが学び、実践しているこうした理論は、業種や職種が変わっても本質のところは変わらない。このようなポータブルスキルを学ぶことで、仕事に対する広い視野と本質を見抜く目が養われるのだ。
とはいえ、「うちの会社はいまだ年功序列の組織で、事業変革や抜てきなんて考えられない。いくら理論や先人の知恵を学んでも、それを生かすチャンスがない」と思っている人もいるはずだ。しかし、激変する市場環境に合わせて変われない企業は、顧客ニーズに応えられず、競合相手にシェアを奪われ、遠からず淘汰されるだろう。もしそうなったら、今の会社でのみ役立てられる知識やスキルしか持たないのでは、次の職場でのパフォーマンスが低下するどころか、次の職場すら見つからないかもしれない。