コミュニケーションがない会社は
バージョンアップできない

――毎朝30分も環境整備に時間を割くのはもったいない気もするのですが。

 それは違います。多くの会社はその30分に仕事をやらせた方がいいと思っているかもしれません。でも1日8時間ずっと集中している人なんて、世の中にほとんどいない。みんなどこかでサボっているんですよ。

 だから当社では、環境整備の時間に最初にやらせてるのはおしゃべり。この30分で社内のコミュニケーションが促進されるんです。話す内容は、仕事に直結していることでなくてもいい。どうでもいい話が実は大事。「昨日隣の席のだれだれさんが捻挫してね」とか、子育てのアドバイスとか、「昨日テレビでこんなのをやってたわよ」とか。どうでもいい話だからこそ、ストレスなく楽しく作業できる。30分くらいおしゃべりに使っても、その日一日ストレスなく仕事ができた方がよっぽどいい。それが私の考え方です。

――おしゃべりさえも環境整備の一つだと。

 コミュニケーションは、そうやって日常的にすることが大切なんです。コミュニケーションがない職場には、どんなにいいシステムやツールを入れても、仕事の内容がバージョンアップしません。仕事の内容がバージョンアップしないということは進歩しないということ。

 例えば、当社ではアルバイトを含めた全従業員806人全員にiPadを支給しています。iPadが発売された年に60台くらい導入して、翌年には全員に。コミュニケーションがない会社ではそうしたツールを入れても、使われずただのゴミになる。でも当社では得意な人の成功例をみんながまねして使っている。それは日頃から社内のコミュニケーションが活発だからです。ツールは渡しただけでは決して機能しないのです。

――環境整備と並んで、勉強会、研修も「価値観を合わせて人を育成する」武蔵野の特色ですね。

 年間に相当数の勉強会があります。これまた全て給料の評価につながるので、みんな参加する(笑)。例えば、経営計画発表会、政策勉強会。早朝勉強会は入社5年未満は半期に20回、5年以上は15回。飲みニケーション、これは最低で月に1回は会社の経費でお酒を飲みなさいと言っている。各営業所を全従業員が見て歩くバスウォッチング。そして社員旅行。社員旅行に行かない人は不採用だと採用前に最初から言ってあります。このようにして価値観を共有する仕組みを作り、継続的に開催する。とにかく繰り返し繰り返し継続的にやることでしか浸透しないんです。

――中小企業の経営者の悩みとして、なかなか優秀な人を採れないとか、人が育たないということもよく言われます。

 だいたい、中小企業で最初から優秀な人を採ろうという発想が間違っている。いい人が欲しいというのは間違いで、今あなたの会社にいる人がいい人なんですよ。どうしてこんな簡単なことが分からないのでしょうか。当社は採用に時間をかけない。なぜなら会社で教育するから。今自分の会社にいてくれる人が一番いい人に決まっているじゃないですか。この人たちを教育すれば、いろいろなことができるようになる。

 当社の本部長は、入社時、コピーすら取れなかった。今では、グーグルのデータドリブンのツールを使った事業を主導するまでになっていますよ。いい人がいないというのは経営者の怠慢。経営者が教えないからです。教えれば、みんなできるようになるんです。

――人材教育、人材育成が一番大事だということですね。

 それをやり続ける、粘り強く続けることです。