サントリーグループの健康事業を担う会社として、2009年に誕生したサントリーウエルネス。“食と生活を通じて健康と美を支える”というビジョンの下、セサミンをはじめ、数々の健康成分を開発、“老化を、科学する”をスローガンに掲げ、人生100年時代のウエルネスを実現しようとしている。その研究と開発の強みを、「サントリー健康科学研究所」所長である柴田浩志・取締役専務執行役員に聞いた。

サントリーウエルネス
柴田浩志
取締役専務執行役員
健康科学センター長
健康科学研究所長
サントリーホールディングス フェローサントリーウエルネス
柴田浩志
取締役専務執行役員 健康科学研究所長
サントリーホールディングス フェロー

 社名のウエルネスという言葉には、誰もが「心もからだも健やかに美しくいちばん輝いた状態」であってほしい、という想いが込められている。大切にしているのは、自然のちからとの出会い、顧客との強い絆、そして「美感遊創(びかんゆうそう)」という生き方である。

「“美感遊創”とは、生活の中で出会うさまざまな美しさに感動し、遊び心を失わず、豊かな毎日を自ら創り出していくという生き方。2代目社長である佐治敬三が好んでよく使った言葉ですが、私たちはその世界観を実現するために、様々な商品やサービスを提供しているのです」

 そう語るのは、サントリー健康科学研究所の柴田浩志所長である。

 サントリーウエルネスのルーツは、1987年に設立された基礎研究所にある。21世紀は必ず“心”と“健康”の時代になると予測し、サイエンスの力で健康食品事業を開拓する挑戦をスタートしたのだ。その事業の核となったのは、植物に含まれる有用成分で、お酒や飲料の原料に含まれるポリフェノールである。

「健康食品事業を立ち上げ、軌道に乗せるためには、独自の機能性素材を開発しなければなりません。それまでの研究成果から、お酒や飲料などの美味や品質に、ポリフェノールが深く関わっていることは分かっていました。そこで、健康維持や増進に対するポリフェノールの新たな効果を探る“ポリフェノールサイエンス”を基本戦略としたのです」

偶然に発見された、
ゴマの中の希少成分「セサミン」

“老化を、科学する”を探求人生100年時代のウエルネスを実現する

 その研究の中から生まれたのが、セサミンだった。セサミンとはゴマの中に1%程度しか含まれていない希少成分で、ポリフェノールの一種である。

 セサミンの発見は、偶然だった。自社の発酵技術を活用し、微生物で必須脂肪酸の一つであるアラキドン酸(ARA)を安定的につくり出す研究を行っていたときのこと。ARAの生産性を高めるため、栄養源となるゴマ油を培地に添加すると、逆にARAの生産性が低下するという予期せぬ現象に遭遇したのだ。調べると、セサミンという成分が、不飽和化酵素の働きを特異的に阻害していた。この発見にヒントを得て、さらに研究を進めた結果、セサミンの抗酸化力を発見したのである。

「それはまさに、自然からの贈り物でした。ゴマは中国の『神農本草経』に不老長寿の秘薬として、また日本最古の医学書『医心方』にも薬効に関する記述があります。伝承的なゴマの健康効能の本質は、セサミンで解明できると私たちは確信し、多くの研究者と共同研究を重ねました。その結果、今では生体内抗酸化作用に加えて、抗疲労効果や睡眠改善効果、美肌に結びつく効果があることが明らかになったのです」(柴田所長)

 セサミンは、非常に安定な成分だが、身体の中に入ると、抗酸化力の強いポリフェノールに変わる。酸化ストレスは、さまざまな疾患の引き金となり、老化とも深い関係があるといわれている。健康で若々しい身体を維持するためには、体内の抗酸化システムを最適に制御することが重要で、セサミンはその働きを有している。サントリーの研究によって、世界中で注目を集める健康成分として知られるようになった。

「当社のセサミンの研究は30年以上の歴史があり、これまでに学会発表は100回以上、学術論文も50報以上、特許も50件以上出願しており、研究はまだ現在進行中。多くの研究者によってバトンが受け継がれているのです」と柴田所長は説明する。