ユニファイドコマースを実現する3つの要件
このように、顧客接点がオンラインかオフラインかを問わず、一貫性のある体験を一人一人に提供するのがユニファイドコマースの仕組みである。
セールスフォース・ドットコム
専務執行役員
ジェネラルマネージャ
プロダクトセールス担当 兼 韓国リージョン統括
小売店がユニファイドコマースを実践するには、何が必要なのだろうか。「ユニファイドコマースを実現するシステムは3つの重要な要件を満たさなくてはならない」と説明するのは、セールスフォース・ドットコム専務執行役員でEコマース製品などのプロダクトセールスを担当する笹俊文氏だ。
一つ目は、店舗とオンラインショップの顧客データを一元化することだ。オンラインでもオフラインでも、常に最新の顧客データにアクセスできるようにしておかなければ、連続性のある接客は難しい。二つ目は、売上目標設定と評価を、オンライン/オフラインで融合することである。オンラインとオフラインの販売インセンティブ制度が別々のままでは、店舗スタッフのやる気を損なうことにもなりかねない。三つ目が、基幹システムと商品・在庫情報の連携である。どの店舗に行けば確実に商品を買えるかが分かるよう、リアルタイムに在庫情報を顧客に開示するには、店舗とバックエンドのシステム連携が不可欠となる。
売上至上主義から、顧客体験重視へ~価値観をシフトできるか
最新トレンドを踏まえた上で、日本の小売業が持続的にビジネスを進めていくには、経営幹部の意識改革が必要になる。重要なのは、短期的な売上よりも「顧客に心地よい体験を提供し続けるにはどうしたらいいか?」という意識だ。
これまではスタッフのいる店舗があくまでも主であり、ECは副次的なものと考えていたかもしれない。しかし、オフラインでのビジネス活動が制限される中、オンラインへのシフトは避けて通れなくなってきた。消費者が求めているのは欲しいものを欲しいときに見極めて買いたいということであり、その時の購買チャネルはオンラインかオフラインかを問わない。だからこそオンラインとオフラインを相反するものと捉えることなく、両方への投資をバランスよく行う必要がある。
難しく考えることはない。笹氏は「今の市場環境は、バランスの取れた投資を後押しする」と見ている。例えば、購買履歴を基にして商品を勧めるのはECが得意とすることだが、同じことを店舗でやろうとすると、担当者の属人的なスキルに依存するため難しいと考えていたかもしれない。しかし今は店舗スタッフもデジタルで武装できる時代だ。先に述べた3つの要素を満たした仕組みを整え、来店した顧客が誰かを確認できれば、どんな商品を勧めれば喜んでもらえるかを店舗スタッフにサジェストし、接客の武器にすることができるようになるはずだ。
逆に、オフラインの店舗スタッフの知見をオンラインに生かすこともできる。笹氏によれば、セールスフォースの製品を利用してオンラインでワインショップを運営しているある企業では、店舗に常駐しているソムリエから集めたアイデアをデータベース化し、オンライン(メルマガ)でのレコメンデーションに役立てている例があるという。
これからの小売店に求められるのは、顧客視点に立ち、どんな体験が心地よいのかを考え抜くことである。それを実現するためのテクノロジーに投資することが他社との差別化につながり、さらにはビジネスを止めないことにつながる。
なぜ、経営幹部は顧客体験を重視しなくてはならないのか? その答えは、製品中心のマスマーケティングに限界が見えてきたからである。単発の施策で新規顧客の獲得に成功し、短期的に売上を伸ばしても、それを継続できるとは限らない。特に少子高齢化が進み人口減少に転じた日本では、新規顧客の獲得以上に、既存顧客にファンになってもらい、継続的に購入してもらうことがビジネスの成長のためにより重要になっていく。店舗は店舗、ECはECと分断するのではなく、自社の顧客にとって心地よい体験は何かを考え、それを実現するテクノロジーに投資をすることが今後は求められる。