RPAを成功させる
3つの条件とは
では、RPAを成功させるにはどのような条件が必要なのでしょうか。
RPAは全社レベルでガバナンスを構築し、現場の自動化を実現できるデジタルツールであると認識し、それにふさわしいアプローチが必要です。特に、次の3つの条件が不可欠だと考えています。
①スケール(規模感)
②レジリエンス(安定/向上稼働)
③インテリジェンス(AI活用)
①のスケールについては、RPAの真価を発揮するには一定の規模が必要なのはよくわかります。どのレベルから、どのようにスタートすればいいのでしょうか。
おっしゃる通り、RPAは部署ごとに個別導入するだけでは効果は限定的です。ただし、管理ができていない状態で無統制にロボットの数を増やすことは厳禁です。現場が使いこなすことができず、管理者不在のいわゆる野良ロボットが発生してしまうからです。そうならないためにも、ガバナンスとコントロールを確立した全社規模の導入をゴールに見据えつつ、初めは小さく生んで大きく育てることが重要です。
そのためには、RPA導入にふさわしい「体制」が必要になります。その扇の要となるのは、経営層の強いリーダーシップとコミットメントの下でつくられた、ユーザー部門とIT部門が参画した社内横断的な「センター・オブ・エクセレンス」(CoE)と呼ばれる組織です。ここがRPAの導入・運用のガイドラインを取りまとめ、全社導入の司令塔的役割を果たします。そのうえで、次の2つのアプローチによって全社にRPAをスケールさせていきます。
1つ目は、トップダウン型のアプローチです。効果の出やすい大型案件を中心に、プロジェクト的に関係部署でRPAロボットの導入・運用を実施。そこでノウハウ蓄積と共有を目指すやり方です。
2つ目は、ボトムアップ型のアプローチです。現場社員がRPAの運用トレーニングを受け、自分自身で条件設定することでロボットを作成します。それを積み重ねながら、全社で一元管理するというやり方です。
ちなみにトップダウンで得たノウハウを活かすと、ボトムアップの効率が圧倒的に上がります。UiPathではこれらのアプローチを効果的に進めるため、デスクトップ型とサーバー型という2つのロボットタイプを両方持っているのも強みです。
②のレジリエンスというのは、RPAを現場にしっかりと定着させるという意味合いですか。
RPA導入に際しては、安定稼働と向上稼動という2つのステップを踏む必要があります。
RPAは既存のシステムを変更せずにそれにつなげて導入できる便利なツールですが、それゆえにハードウェア・アプリケーション・OSなどの環境変化の影響を受けやすいことも事実です。万能な答えはありませんが、ノウハウの蓄積とUiPathの機能を駆使することで、まずは安定稼働を目指すことが大切です。
安定稼働が実現すればロボットは社員の仲間となり、次に組織のさらなる強みとなるよう、より進化した向上稼働を目指します。一般的なITシステムの拡張と違って、RPAは現場で高速にPDCAを回すことで、現場主導の機能拡張が継続的にできるのです。
③のインテリジェンスでは、AI活用を挙げています。RPAとAIはどのような関係性にありますか。
手前味噌ですが、UiPathの企業価値はこの2年で20倍、3300億円にまで拡大しました。これはRPA市場拡大への期待だけでなく、より大きなAI市場の成功にRPAが不可欠な基礎技術であると考えられているからです。
RPAが社内のさまざまな情報システムや基幹システムをつなぐ「手」となり、そこにOCR(注1)が加わることで「目」の役割を、チャットボット(注2)が「耳」の役割を果たします。そして、そこにAIが加われば「頭脳」となるのです。
このように、RPAこそがAIの効果を実務レベルで実証し、活用を加速させる重要なツールとなります。RPAは一定のルールの中で業務を自動化するツールではありますが、RPAが持つ「つなげる力」で新たな可能性が生まれます。自動化業務の範囲を広げ、高度化することができるのです。
たとえばRPAとAI-OCR(注3)の連携。紙からデジタルへの活用は多くの現場担当者が興味を持っています。AIの学習機能を持ったOCRが手書き文書を読み取ることで、効率的にデータのデジタル化と業務の自動化ができるようになりました。
また、チャットボットとの連携も期待が膨らみます。チャットボットは会話をする機能はあっても、過去のノウハウや知見を活かした対話ができないという難点がありました。
しかし、RPAが過去の知見を蓄積したレガシーシステムとチャットボットをつなぐことで、顧客に効果的なサポートができる対話が可能になりつつあります。
注1)手書きや印刷された文字を、イメージスキャナーやデジタルカメラによって読み取り、コンピュータが利用できるデジタルの文字コードに変換する技術。
注2)人間が入力するテキストや音声に対して、自動的に回答するシステム。人間に代わって問い合わせや注文対応などを行う。
注3)AIの技術を取り入れたOCRのこと。機械学習や深層学機能を取り入れることで、読み取りの精度が格段に向上する。
先ほどおっしゃっていた「RPAがAI成功に不可欠な基礎技術である」という点について、詳しくお聞かせください。RPAがAIとつながることでどのような可能性が生まれるのでしょうか。
AIを動かすためには、膨大なデータをさまざまなシステムから収集し、クレンジングし、機械学習や深層学習によって収集取得したデータをレビューし、そこから学習モデルの評価を行い最適化するといった、一連のプロセスが必要になります。
このプロセスにおいていまは、データサイエンティストの多くの時間が、データ収集、クレンジングなどの基礎データ構築という単純作業に取られています。そこで活躍するのがRPAです。このプロセスをRPAで自動化することで、データサイエンティストの生産性を上げるだけでなく、AIの圧倒的な高度化にも貢献しています。
また、先述した日本型RPAの実現においても、RPAとAIの協業は有効です。日本企業の現場に多い複雑・少量・多様な手作業は、自動化の条件設定が非常に難しいという課題があります。ここにAIの学習機能によるインテリジェンスが入ることで、自動化に自律的な要素が加わり、自動化の幅と質に大きな変化が起こることを確信しています。
私たちはRPAによる自動化をより実践的なものにするためにも、AIとの協業をさらに追求していきます。今年(2019年)の7月30日には「UiPath AI EXPO」を開催し、AIと連携したショーケースをたくさんお見せしたいと思っています。