企業資産を活用したブランド戦略で
「購買の決め手」を目指す

 最近のブランド確立によるビジネスの成功例で増加しているのは、商品が良いと思わせる理由を、その商品固有のスペックではなく、企業資産によるものだと知覚させる手法にある。

 ビールのブランド訴求で対比させるなら、消費者に対して「このビールだけ特別な麦芽を使っているから美味しい」ではなく「この会社が昔から力を入れている天然水100%仕込みだから美味しい」と感じさせるということだ。 

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 ブランド戦略における企業資産とは、財務諸表の資産とは異なり、消費者が知覚できる「その企業固有の強み」と定義できる。例えば、独自性の高い「原料・成分」、「研究開発力・技術力」、「製法・機能」、「著名な経営陣」、「サービス」などがそれに該当する。

 先ほどのように“天然水の良さ=強みのある原料”で、ビールやウイスキーの品質を訴求するパターンだけでなく、“独自のコーヒー豆の深い炒り方”でコーヒーの品質を訴求したり、化粧品の効果の高さを写真フィルムで培った技術を転用したと訴求するなど、企業独自の製法や研究開発力の高さを訴求するケースなどさまざまなパターンがある。

 こうした「企業資産を訴求して差別化するブランド戦略」が増える背景には、消費者側・企業側、双方の力学が働いている。

 消費者側の力学の要因として挙げられるのは、多くの商品・サービスにおいて、大多数の消費者からするとスペックにそれほど大きな差が感じられなくなったことである。こうしたコモディティ化によって、消費者は商品・サービス選びに時間をかけることはしない。

 そのため、より短時間で価値を理解できる商品・サービスでないと選ばれにくいというのが最近の傾向だ。さらに、所得が伸び悩む中で、買い物で失敗したくない気持ちも強い。その企業が本気で注力し、強みが活かされたと感じられる商品やサービスでないと、失敗を恐れ、敬遠する傾向にある。

 一方、企業側にはROI(投下投資利益率)を高めたいという切実な要請がある。毎シーズン、競争軸が変わり続ける商品固有のスペック訴求に投資するよりも、企業資産を商品の良さとして訴求することに投資し、長期にわたってその成果を蓄積・活用することでROIは高まる。業種によっては、他の自社内商品カテゴリーにも横串して訴求することが、ROIの向上につながる。

 総合電機メーカーで、白物家電からAV・IT家電までを横串してエコ性能を訴求するようなケースはその顕著な例と言える。ひとつの商品ブランドでは実現できない巨額投資によるエコ訴求の結果、消費者からすれば、詳細にカタログを調べなくても「そのメーカーなら環境技術が高いので、この洗濯機も節電性能が高いだろう」というように、成功すれば個々の商品それぞれが恩恵を受けて選ばれやすくなる。

 また、グローバル展開を加速させる企業にとっては、企業資産由来のブランド戦略にシフトせざるを得ない事情もある。一般的に海外の消費者は、日本以上に企業ブランド=企業資産を重視して商品を選ぶ傾向が強いからだ。

 この企業資産を活用した商品ブランド戦略という新潮流は、従来のコーポレートブランド戦略とは似ているようで大きく異なる。従来のコーポレートブランド戦略では「〇〇社の製品なら買っても失敗しない」というように、選択肢に入るためのベースとなる安心感や信頼感をつくることにあった。

 この新しいブランド戦略ではもう一歩踏み込んで、「〇〇社の製品だから他よりもよい」といった“より積極的に選ばれる決め手を、企業資産で担保すること”が目的となる。