SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)の普及によって、アポイント獲得率や案件化率、受注率、継続率などは営業のKPI(重要業績評価指標)として広く定着してきたが、セールスフォース・ドットコムの広瀬佑貴氏は「デジタル時代の営業は、捕捉率によって成果が大きく左右される」と説く。新たなKPIとしての捕捉率とは何か、なぜ捕捉率が重要な鍵となるのか、そして捕捉率を上げることによってどのような成果を得ることができるのか。前編と後編の2回にわたって、解説する。
買い手自身が情報を集められるようになり、戦わずして負ける商談が増えた
まず、捕捉率とは何かを説明しよう。捕捉率とは市場ニーズの総数のうち、自社が把握しているニーズの割合であり、以下の式で表すことができる。
捕捉率=自社が把握しているニーズの数÷市場ニーズの総数
一般消費者向けに製品・サービスを販売するB2C企業では、捕捉率を算出することは難しいかもしれないが、法人を対象とするB2B企業であればターゲット顧客の総数や、その中で自社が何らかの形で接点を持ち、ニーズを把握している顧客(見込み顧客を含む)の数を割り出すことはできるはずだ。
なぜ、この捕捉率を営業のKPIとする必要があるのか。それは、「戦わずして負ける商談が増えてきたからです」と、セールスフォース・ドットコム ソリューション営業本部 Pardot第二営業部 部長の広瀬佑貴氏は語る。
見込み顧客との商談まで持ち込み、受注できた案件が「戦って勝った商談」だとすると、「戦わずして負ける商談」とは、ニーズを捕捉できず商談にさえ至らなかった案件のことである。
近年、多くの企業でSFAやCRMなど営業支援ツールの導入が進んだことで、戦って勝つための仕組みが整備され、受注率や継続率を高めるための打ち手を企業は積極的に講じるようになっている。その一方で、ニーズを捕捉できない見込み顧客の割合が増えている(捕捉率が低下している)ために、戦わずして負けることが増えてきたのである。
ソリューション営業本部
Pardot第二営業部 部長
2011年にBtoBマーケティング支援のベンチャー企業に入社。テレマーケティングの営業を経てマーケティングオートメーション(MA)ツールの新規営業を担当。2016年にセールスフォース・ドットコムに入社。同社の扱うMAツール「Pardot」の国内販売の立ち上げに参画し、現在同チームのマネジメントに従事。
捕捉率が低下している理由は、製品・サービスを売る側と買う(利用する)側の情報の非対称性が崩れたからだ。かつては、市場動向や競合他社の動き、製品・サービスそのものに関する情報などは、売り手側の方が圧倒的に多く持っていた。従って、これらの情報を得るために、買い手側は売り手側と接触し、提案を依頼するのが一般的だった。
ところが、スマートフォンやタブレットなどのデジタルデバイスとインターネットの普及によって、買い手側は売り手側に接触するまでもなく多くの情報を集めることができるようになり、情報の非対称性が崩れたのだ。
調査会社のガートナーによれば、インターネットによる情報収集が一般的になったことで、顧客が営業担当者に直接コンタクトを取る前の段階で、購買プロセスの約60%は完了しているとされる。
「つまり、買い手側は何を買うかをおおかた決めた上で、売り手側に接触するようになっているのです。そのため、自社の製品・サービスの魅力を十分に伝える機会がないまま、知らないうちに競合他社を選択されてしまうケースが増え、戦わずして負けてしまっているわけです」(広瀬氏)