前編では、顧客の情報収集がデジタル化したことにより、そのニーズや動向を把握することが難しくなり、結果として「戦わずして負ける商談」が増えていること、そして、売り上げアップには「捕捉率」の改善が欠かせないことを説明した。この後編では、デジタル化した顧客にいかに対応して営業のデジタル改革を進めていくか、また、その手段としてのマーケティングオートメーションの有効性と活用事例について紹介したい。
オンライン上での行動を捉え、ニーズの捕捉率を改善する
マーケティングオートメーション(MA)ツールの活用について説明する前に、デジタル化した顧客に対して、デジタル営業ないしはデジタルマーケティングがいかに有効かを示すエピソードを紹介したい。これは、セールスフォース・ドットコム ソリューション営業本部 Pardot第二営業部 部長の広瀬佑貴氏が紹介する事例である。
ソリューション営業本部
Pardot第二営業部 部長
2011年にBtoBマーケティング支援のベンチャー企業に入社。テレマーケティングの営業を経てマーケティングオートメーション(MA)ツールの新規営業を担当。2016年にセールスフォース・ドットコムに入社。同社の扱うMAツール「Pardot」の国内販売の立ち上げに参画し、現在同チームのマネジメントに従事。
広瀬氏は、MAの導入と自社ウェブサイトのリニューアルを同時に検討している企業からの依頼を受け、ウェブサイト構築にたけた協業ベンダーと一緒に提案をした。そのクライアント企業を仮にA社としよう。産業廃棄物の処理を請け負うA社では、まずウェブサイトのリニューアルを先行して行うことにした。
A社ではリニューアルを実施してから程なく、ウェブサイト経由での問い合わせを新規受注につなげることに成功した。しかも、その新規顧客はA社はもちろん、他の競合企業も見込み顧客として全く想定していなかった業種の企業だった。
A社はメーカーや工場などを主な対象として産業廃棄物の処理を行っていたのだが、その新規顧客は美容院だった。A社では美容院業界に自社サービスのニーズがあることを知らず、見込み顧客として意識すらしていなかったのである。
「対面営業では把握できていない顧客の動向やニーズを、デジタルによってつかむことができた典型的な例といえます。ウェブサイトの機能やコンテンツを見直すだけで、見えていなかった顧客ニーズが見え、捕捉率が高まるのです」(広瀬氏)
A社では、美容院業界からの新規受注をきっかけに、捕捉率を高めることの重要性を再認識した。これまで展示会などで名刺を取得していながら、アプローチしていなかった業種や企業を改めて洗い出すとともに、自社のウェブサイトにアクセスしてきた来訪者の行動を捕捉するために、MAツールの活用を本格的に強化していく方針だという。
さてここで、MAツールについて簡単に説明しておこう。
MAツールには、大きく2つの機能がある。1つは、自社が保有するメールアドレスとCookie(クッキー)情報をひも付けて、見込み顧客のオンライン上での行動を捕捉する機能だ。誰が、ウェブサイト上のどのページを何秒間見たか、どのページからどのページに遷移したか、企業や営業担当者から送ったメールをいつ開封したかといった行動を捕捉できる。捕捉した見込み顧客の動きは、リアルタイムで営業担当者に自動通知される。
もう1つは、上記の機能で可視化したオンライン上での行動を基に、見込み顧客の興味・関心やオンライン上での行動を分析し、その分析結果に基づく最適なタイミングでのメール配信やキャンペーンの実施と管理、商談や成約に至る可能性を点数化する評価(スコアリング)など、従来は人手に頼る部分が多かったマーケティングの実行作業を自動化(オートメーション)する機能である。