見込み顧客の捕捉率を向上させるという意味で、より重要となるのは前者、つまり見込み顧客のオンライン上での行動を捕捉する機能である。前編でも述べた通り、製品・サービスの購入を検討している見込み顧客はインターネットで情報収集することが当たり前になっており、営業担当者にコンタクトする前に購買プロセスの約60%は完了しているとされる。
購買検討者の9割以上が、購買の意思決定をする前に企業のウェブサイトを閲覧して情報を収集しているというデータ(アクセンチュア調査)もあり、見込み顧客のオンライン上での行動を捕捉できていないと、商談につなげるきっかけをつかめず、知らぬ間に他社にシェアを奪われてしまう可能性を高めることにもなる。
逆に、MAツールのトラッキング機能により、営業担当者が対面や電話での会話などからはつかめていなかった見込み顧客のニーズを捉えることができれば、捕捉率を改善できることは間違いない。
MA導入によって、買い替えや新規検討の予兆をつかむ
オンライン上での動きをリアルタイムで捕捉できるようになれば、見込み顧客が興味・関心を持っているタイミングで、その内容に基づいた営業活動をすることができる。これは、捕捉率以外のKPI(重要業績評価指標)にも良い影響を及ぼす。
例えば、見込み顧客への提案のタイミングが最適化されれば、失注率が下がることになるので、結果的に受注率の向上につながる。また、競合他社が見込み顧客のニーズに気付く前に提案機会を持つことができれば、自社の価値を適切に訴求した上で価格勝負を回避し、商談単価の下落を防ぐことができる。
では、そのようなMAツールの特性を生かして捕捉率を高めた事例について紹介しよう。ここでは、製造業B社の事例を取り上げる。
B社では会員制のウェブサイトを運営しており、会員は製品カタログや各種資料などをダウンロードすることができる。B社のシステムでは、会員がカタログや資料をダウンロードしたことは捕捉できるが、ウェブサイト上で会員が見ているページを捕捉することはできていなかった。このため、どの製品とどの製品を比較しているか、何か新しい製品に関心を示していないかといったことを捕捉できなかった。
「厳密に言うと、ウェブサイト上の会員行動のログデータはサーバーには保存されているのですが、そのデータと会員情報をひも付けて、誰がどういう行動を取っているかを可視化できる仕組みにはなっていませんでした。そのような仕組みを自社でゼロから構築するには、莫大な初期費用やメンテナンス費用がかかってしまうからです」(広瀬氏)
B社では開発コストや初期投資を抑えられるサブスクリプション型のMAツールを導入することで、この課題を解決した。ウェブサイト上での行動が、会員情報とひも付けられ、容易に可視化できるようになったのだ。これによって、ある企業の会員が「上位スペックの製品をウェブサイトで見ている」「新製品情報を閲覧している」といったことが捕捉できるようになり、買い替えや新たな製品検討の予兆をつかむことができるようになった。
B社では、大口の顧客企業に関しては専任の営業担当者を配置しており、会員制ウェブサイトの閲覧情報は営業担当者が把握し、オフラインでの営業活動情報と統合管理することで、ニーズの捕捉精度を高めている。
また、専任の営業担当者がいない小口の顧客や受注実績がない見込み顧客については、マーケティングチームがオンライン上の行動を把握し、メール配信などによって関係を維持、製品への興味・関心が高まった段階ですぐにニーズを捕捉し、営業担当者に移管できる仕組みを整えて、MAツールを運用している。
広瀬氏は、顧客企業の行動捕捉は個人単位だけでなく、企業単位で行うことも推奨している。いわゆる、アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)の実践だ。
セールスフォース・ドットコムが提供するMAツール「Pardot」(パードット)には、製品ごとの興味・関心度合いをスコアリングできる機能がある。顧客企業にはさまざまな部門があり、部門ごとにニーズは異なる。各部門に所属する個人の製品ごとのスコアを企業単位で合算することで、その企業に対して次にどのような製品を、どのタイミングで提案するかという活動計画を立案することができるのだ。
広瀬氏によれば、このようにMAツールを活用して顧客ニーズの捕捉範囲を広げたことにより、見込み案件数が5倍に増えた企業や売上高が倍増した企業もあるという。